ビレーの酒場「錆びた剣」の賑やかな喧噪が、ラーンの耳をつんざく。イシェが顔をしかめて、酒を一口含む。
「今日は特に騒々しいな」
「ああ、大穴の噂がまた流れ出したんだろ」
ラーンは笑いながらテーブルに肘をついて言った。イシェは眉間に皺を寄せたまま、ラーンの言葉に頷く。最近、ビレー周辺で新たな遺跡が出土したという噂が広まり、町の空気が熱気に包まれている。だが、二人はそんな騒ぎにあまり関心を示さなかった。彼らにとって重要なのは、次の探索の依頼だ。
「テルヘルから連絡が来ないな」
イシェは不安げに言った。 ラーンは肩をすくめた。テルヘルからの依頼はいつも高額で危険なものばかりだが、彼女が提示する報酬には誰もが目を輝かせた。
数日後、ついにテルヘルの使いがビレーを訪れた。彼女は黒曜石のような瞳で二つの書類を広げた。
「今回はヴォルダン領の遺跡だ。目的は、そこにあるという古代の技術資料だ」
イシェは書類を手に取り、眉をひそめた。ヴォルダン領とは、エンノル連合と緊張関係にある大国だ。
「危険すぎるだろう。なぜ我々が?」
「情報によると、ヴォルダンの軍が同じ遺跡を狙っている。我々は彼らより先に資料を手に入れなければならない」
テルヘルは冷徹な視線を向けて言った。「報酬はいつもの倍だ。もちろん、成功した場合の話だが」
ラーンは興奮を抑えきれずに笑った。イシェはため息をついた。
「いいだろう、やろう」
二人は互いに頷き合った。ヴォルダン領への潜入は危険が伴うが、報酬に見合うリスクだった。
遺跡の入り口には、ヴォルダンの軍の旗が翻っていた。ラーンとイシェはテルヘルの指示通りに影に潜り込み、慎重に遺跡内部へと足を踏み入れた。遺跡内は暗く湿っていて、古びた石造りの通路が迷路のように続いていた。
「ここには罠があるぞ」
イシェは足元に置かれた石版を注意深く観察し、警告した。ラーンは剣を抜いて警戒した。二人は慎重に進むうちに、ヴォルダンの兵士を発見した。激しい戦いが始まった。ラーンは剣を振るい、イシェは機転を活かした動きで敵を翻弄した。
ついに遺跡の中央の部屋にたどり着いた。そこには、古代の技術資料が置かれていた。だが、同時にヴォルダンの軍勢も到着していた。激しい攻防戦となり、ラーンとイシェは窮地に陥った。その時、テルヘルが現れた。彼女は単身で敵陣を切り抜け、ヴォルダン軍を圧倒した。
「資料を手に入れろ!」
テルヘルの叫び声と共に、ラーンは資料を手にし、遺跡から逃走を開始した。
しかし、逃げる途中でイシェが足を捻挫してしまう。ラーンはイシェを抱え上げ、必死に走り続けた。だが、ヴォルダン軍の追撃が迫っていた。
「逃げろ!ラーン!」
イシェは叫んだ。ラーンの背中に抱きしめられたまま、彼女は涙を流した。
ラーンは決断した。彼はイシェを安全な場所に隠すため、自らヴォルダン軍を引き付ける道を選んだ。
「イシェ、生き残れ!」
ラーンの絶叫が、荒野に響き渡った。