「よし、今回はあの崩れかけた塔だ。噂では、最上階に何かが残されているらしいぞ」
ラーンの興奮する声に、イシェは眉間にしわを寄せた。「また噂話か?そんな危険な場所に何があるっていうんだい?」
「でも、もし大穴を見つけたらい?俺たちの人生が変わるぞ!」
ラーンの瞳は輝き、その様子を見てイシェはため息をついた。
ビレーの遺跡探索者として、彼らは日々の糧を得るために遺跡を巡っていた。だが、ラーンにとってそれは単なる生計ではなく、いつか大穴を見つけるという夢への一歩だった。
「よし、準備はいいか?」
テルヘルが鋭い視線で二人を確認した。「今回は特に注意が必要だ。ヴォルダンの兵士が目撃されているらしい」
イシェは緊張感を隠せない。ラーンはいつも通りの楽観的な表情だが、彼の握る剣は力強く震えている。
崩れかけた塔の入り口は、まるで巨大な獣の口を彷彿とさせる。内部に踏み入れると、埃が舞う薄暗い通路が広がっていた。彼らは慎重に進んでいった。
「ここだ」
テルヘルが壁に手を当てると、かすかに光る模様が見えてきた。「古代の言語だ。この塔はヴォルダン帝国の遺跡らしい」
イシェは不安を募らせながら、ラーンの後ろをついていった。彼には、いつも通りの無邪気な笑顔が見えない。
「何かあったのか?」イシェが尋ねると、ラーンは小さく頷いた。「俺…実は…」
彼は言葉を詰まらせ、顔から血の気が引いていった。イシェはラーンの様子に驚き、恐怖を感じた。
「何だ?何が悪いんだい?」
ラーンの視線は、崩れかけた塔の上層階を向いていた。そこに、何か恐ろしいものが潜んでいるように見えた。