「準備はいいか?」ラーンの粗い声はビレーの薄暗い路地裏で響いた。イシェは小さく頷き、背負った装備を確認した。テルヘルは影のように二人を見下ろしながら、「今回は慎重に。あの遺跡は危険だと言われている」と冷静な声音を響かせた。
彼らはヴォルダンとの国境に近い、忘れられた遺跡へと向かっていた。テルヘルが持ち出した情報によると、その遺跡にはヴォルダンが欲しがる強力な遺物があるらしい。ラーンはいつものように興奮気味だったが、イシェは不安を抱えていた。彼女は最近、ラーンの体に変化を感じていたのだ。以前のように力強くなく、動きも鈍くなっている。
「大丈夫か?ラーン」イシェが心配そうに声をかけると、ラーンは苦笑いした。「俺はまだ若い。少し疲れただけだ」と彼は言ったが、彼の目は虚ろで、声には覇気がなかった。
遺跡の入り口に差し掛かった時、ラーンの足がつまずいた。イシェが彼を支えようとしたが、ラーンの体はまるで重石のように感じられた。「何だ?」テルヘルが不吉な予感を抱きながら近づくと、ラーンの顔色は青白く、額には冷や汗が滲んでいた。
「俺…何か変だな…」ラーンは呟き、そのまま地面に倒れ込んだ。イシェは慌ててラーンを抱き上げようとしたが、彼の体は異様に熱く、触れただけで灼熱の痛みを感じた。「何があったんだ?」イシェはパニックになりながら叫んだ。
テルヘルは冷静さを保ち、ラーンの脈を確かめた。「彼は…弱っている。何か呪いでもかけられたのかもしれない」彼女は眉をひそめ、「遺跡に入る前に引き返すべきだ」と提案した。しかし、イシェは動かなかった。ラーンを助けたい一心で、彼女は決意した。「私はここにいる。ラーンのために」
テルヘルはため息をつきながら、イシェと共にラーンを安全な場所に移動させた。遺跡への探索は中止となり、代わりにラーンの謎の病の原因を探ることになった。彼らは、ラーンの弱体化が、遺跡に潜む何らかの力によるものなのか、それとも別の原因があるのか、真実を解明しなければならなかった。