ビレーの喧騒を背に、ラーンはイシェとテルヘルに肩を並べて森へと足を踏み入れた。太陽が枝葉の間から差し込み、地面に幾つもの光斑を描いていた。
「今日はいい天気だな」
ラーンがそう言うと、イシェは小さくため息をついた。いつも通りのラーンの無頓着さにイシェは慣れていたが、今日の探索には何かしらの予感がして落ち着かなかった。テルヘルは視線を鋭く森の奥に固定していた。
「遺跡の入り口はすぐだ」
テルヘルの声が響き渡ると、ラーンは嬉しそうに剣を軽く振った。イシェは不安を感じながらも、二人が先に進むように頷いた。遺跡への道は険しく、足元には滑りやすい石が転がっていた。ラーンの軽快な足取りとは対照的に、イシェは慎重に足を踏みしめていた。
遺跡の入り口には、崩れかけた石柱が何本も立ち並んでいた。かつて栄えた文明の名残を感じさせる壮麗さは、今は朽ち果てた影のように見えた。テルヘルは石柱に刻まれた古代文字を指さし、説明を始めた。
「この遺跡は、かつて『失われた王国』の王族が眠る場所だと伝えられている。遺物はもちろん、王家の墓所には莫大な財宝が眠っていると噂されている」
ラーンの顔色が明るくなった。イシェはテルヘルの言葉を冷静に聞きながらも、どこか不吉な予感が拭えなかった。遺跡内部に入ると、薄暗い通路が広がっていた。湿った空気が肌に張り付くようだった。
「気をつけろ。ここには罠があるかもしれない」
テルヘルが低い声で警告した。ラーンはうなずき、剣を構えた。イシェは緊張感に押しつぶされそうになりながら、二人についていった。
通路を進んでいくと、壁一面に古代文字が刻まれていた部屋に出た。その中心には、巨大な石棺が置かれていた。棺の上には、奇妙な模様が刻まれた金色の蓋が輝いていた。
「これが王の墓か…」
ラーンは息を呑んだ。イシェは緊張で心臓が激しく鼓動していた。テルヘルは冷静に棺の蓋に触れようとした瞬間、床から不気味な音が響き渡った。
「気をつけろ!」
ラーンの叫びと共に、床が崩れ始めた。三人はバランスを崩し、奈落へと落ちていく。
漆黒の世界に飲み込まれた時、イシェは一つのことを悟った。それは、この遺跡の危険さは、表面的な罠や財宝ではなかったということだった。
そして、ラーンの無謀さと、テルヘルの冷酷なまでの目的意識が、彼らをより深い闇へと引きずり込むのだと。