「また遺跡か…」イシェがため息をついた。ビレーの朝焼けが、荒れ果てた遺跡の入り口を赤く染めていた。「あの日暮らしはいつになったら終わりだ？」
ラーンは陽気に笑った。「お前には夢がないのか？いつか大穴を見つけて、ビレーから引っ越して豪邸に住むんだ！」
イシェは苦笑した。ラーンの「大穴」の話はいつも同じだった。だが、彼の目は輝いていて、イシェの心にもわずかな希望を灯していた。
「今日はテルヘルが案内する遺跡だぞ。危険らしいが、報酬も高い」とラーンが言った。「もしかしたら、あの伝説の宝刀が見つかるかもな！」
テルヘルは影のある表情で二人を見下ろした。「宝刀などどうでもいい。重要なのは、ヴォルダンに復讐するための情報だ。」彼女の目は冷酷に輝いていた。
遺跡内部は薄暗く、埃っぽい空気中に湿った臭いが漂っていた。石畳の床には苔が生え、崩れかけた壁には謎の文字が刻まれていた。ラーンは剣を構え、イシェは慎重に足取りを確かめながら進んだ。テルヘルは先頭を歩き、時折振り返って地図を広げて確認していた。
「ここはかつてヴォルダンの軍隊が駐屯していた場所だ」とテルヘルが言った。「彼らは強力な魔術師を雇い、この遺跡から何かを奪っていったという記録が残っている」
イシェは背筋が寒くなった。ヴォルダンは強大な軍事力を持ち、周辺諸国を圧迫している大国だった。その軍隊が遺跡から何かを奪っていったということは、単なる財宝ではなく、恐ろしい武器や魔法の道具かもしれない。
遺跡の奥深くには、巨大な石棺が安置されていた。テルヘルは興奮したように棺に近づき、蓋を開けようとした。「ここにはヴォルダンが最も恐れている何かが眠っているはずだ！」
ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。棺から発せられる邪悪な気配を感じ、不吉な予感がした。
その時、棺の蓋が突然吹き飛ばされ、中から黒い煙が噴き出した。煙の中から巨大な影が現れ、二人を襲いかかった。ラーンは剣を振りかざし、イシェは素早く逃げようとした。
「待て！」テルヘルが叫んだ。「あの影はヴォルダンの魔術師が封印した存在だ。彼を倒せば、ヴォルダンに復讐できる！」
ラーンとイシェは驚愕した。テルヘルの本当の目的は、遺跡から何かを奪うことではなく、この影を利用してヴォルダンを滅ぼすことだったのだ。
激しい戦いが始まった。ラーンの剣が影を切り裂き、イシェの素早い動きで攻撃をかわした。だが、影は再生能力を持ち、なかなか倒せなかった。
テルヘルは影を操る魔法を発動し、ラーンとイシェの攻撃を援護した。激しい戦いの末、ついに影を倒すことに成功した。
「これでヴォルダンも終わりだ」とテルヘルが言った。だが、彼女の顔には安堵感ではなく、どこか寂しげな表情が広がっていた。「そして私も…」
ラーンはテルヘルの言葉を遮り、「ビレーに帰ろう！」と言った。イシェも頷いた。彼らは遺跡から脱出し、ビレーの街へと戻っていった。
その夜、イシェは星空を見上げながら、ラーンに言った。「あの影を倒すために、テルヘルは何を犠牲にしたんだろう…」
ラーンは深く息をつき、「いつか彼女が故郷に戻れる日が来るといいな」と呟いた。二人は静かに夜空を見つめ続け、それぞれの胸の中に、複雑な感情を抱いていた。