ラーンの大剣が石壁を粉砕した。埃が舞う中、イシェが眉間にしわを寄せた。「また無駄な力の使い方だ。あの程度の壁なら、もっと finesse のある方法で突破できたはずだ。」
ラーンは鼻で笑い、「お前はいつもそう言うよな。でも、たまには豪快にやらないとつまんないだろう？」と肩をすくめた。イシェはため息をつきながら、壊れた壁の隙間から中を覗き込んだ。「まあ、いいわ。ここは僕がお前が壊した穴を塞ぐ番だな。」
遺跡内部は湿気が立ちこもり、薄暗い光が差し込むだけで、ほとんど視界は利かなかった。ラーンの足音だけが重く響く。テルヘルは先頭を歩いていたが、振り返らずに、「静かにするんだ。何かいるかもしれない。」と低い声で言った。
イシェは懐中電灯の光を壁に当てながら、「何かいるって？ 遺跡に棲む魔物か？」と尋ねた。
「違う。」テルヘルの声が冷酷だった。「僕たちの邪魔をするものだ。」
しばらくの間、三人は音もなく進んだ。
やがて、先端に広がる空間が見えてきた。そこには、巨大な石碑がそびえ立っていた。複雑な模様が刻まれており、空気を震わせるような力を感じさせる。ラーンは思わず息をのんだ。「これは...。」
「古代の遺物だ。」テルヘルが言った。「伝説では、この石碑に触れる者は、どんな願いも叶えられるという。」
ラーンの目は輝き、イシェは慎重に周囲を警戒した。その時、石碑の影から何かが動き出した。黒い影が彼らを包み込み、恐怖の念が三人の心をよぎった。
「逃げろ！」テルヘルが叫んだ。
しかし、遅かった。影はすでにラーンを捕らえていた。ラーンの剣が地面に落ち、彼の叫びが空虚な響きになった。イシェは絶望し、テルヘルは冷静さを失わずに状況を見極めた。
「これは...僕たちが欲しかったものとは違う。」テルヘルは呟き、影に向かってゆっくりと手を伸ばした。
影は一瞬止まった。そして、ラーンの姿がぼんやりと見え始めた。彼はまだ動けなかったが、意識を取り戻していたようだった。
「これは...引き算なのか？」イシェが震える声で言った。
テルヘルは何も言わずに、石碑の刻まれた模様をじっと見つめた。影はゆっくりとラーンの体を離し、石碑に吸い込まれていった。そして、石碑からは何も残らなかった。
三人は何も言わずに遺跡から出て行った。ラーンの体は傷ついていたが、命は助かっていた。イシェはラーンを支えながら、テルヘルの後ろ姿を見つめていた。彼は何を考えているのか？ そして、この「引き算」とは一体何なのか？
答えのないまま、三人は沈黙の中でビレーへと戻っていった。