「よし、今日はあの遺跡だな」ラーンの腕が、イシェの肩に力強く乗っかる。いつも通り、彼の顔には興奮の色がみなぎっていた。「あの噂の『黄金の棺』が見つかったら、俺たち、もう一生遊んで暮らせるぜ!」
イシェは小さくため息をついた。「また大穴の話か…」 ラーンの言葉の裏にある現実を彼女はよく理解している。遺跡探索で本当に大金持ちになった者など、聞いたことがない。それでも、ラーンの熱意に引っ張られるように、いつも一緒に遺跡に挑んでしまうのだ。
「今回は違うって!あの遺跡は、ヴォルダン辺境警備隊が調査したらしいんだ。何か特別な遺物があるって噂だぞ!」 ラーンの言葉は、まるで真実を握っているかのような確信に満ち溢れていた。
イシェは眉間にしわを寄せた。「ヴォルダン辺境警備隊…?」 彼らが遺跡調査を行ったということは、そこには危険が伴うことを意味する。だが、ラーンの興奮を冷やす言葉が見つからない。結局、「わかった」とだけ呟いて、準備を始めた。
テルヘルは彼らのやり取りを冷静に見ていた。彼女の目的は遺跡の遺物ではなく、ヴォルダンへの復讐にある。ラーンとイシェを利用するのは手段の一つに過ぎない。彼らの無邪気な夢は、彼女には理解不能なものだ。だが、彼らの行動から得られる情報や、彼らの持つ能力は、自身の復讐を果たすための有効な武器になる。
「よし、準備はいいか?」 テルヘルが尋ねると、ラーンとイシェは力強く頷いた。三人は遺跡へと向かう道に足を踏み出した。その背後には、ヴォルダンとの因縁と、それぞれの夢が複雑に絡み合っている。
遺跡の入り口で、イシェは一瞬立ち止まった。何かを感じたのだ。この遺跡は、他の遺跡とは違う空気を漂わせていた。彼女はラーンとテルヘルに振り返ろうとしたが、すでに彼らは遺跡へと入っていった。イシェは深呼吸をして、ゆっくりと後を追う。
「ここ…何かが違う…」
イシェの直感は、この遺跡が彼らの運命を大きく変える予兆であることを知らせているのだろうか。