ラーンの大剣が石壁を叩き割り、埃が舞い上がった。薄暗い遺跡の奥へ進むにつれ、冷気が肌にまとわりつくようになった。イシェは懐中電灯を前方に向けながら、足元の崩れた石畳を慎重に歩いていた。
「よし、ここだ！」
ラーンの声が響くと同時に、彼は興奮気味に壁にある石板を指差した。複雑な模様が刻まれたその石板は、遺跡探査の経験豊富なイシェにとっても初めて見るものだった。
「これは…？」
イシェが呟くと、テルヘルが近づき石板を凝視した。彼女の瞳には冷徹な光が宿っていた。
「ヴォルダン王朝の紋章だ。ここには何か隠されているはずだ」
テルヘルはそう言いながら、小さな革袋から銀の針を取り出した。その針は細長く、先端が鋭く尖っている。彼女は石板の模様に合わせて慎重に針を差し込み始めた。
「何をしているんだ？」ラーンが眉間にしわを寄せた。「そんなことしていいの？」
テルヘルは答えずに作業を続けた。イシェは彼女の背後から様子を伺いながら、不安を感じていた。テルヘルの目的は何か、そしてこの遺跡に何が隠されているのか、彼女はまだ見抜けていなかった。
針が深く刺さり、石板の奥深くにある何かの音を立てる。突然、壁の一部が崩れ落ち、奥へと続く通路が現れた。
「やった！」ラーンは大声で叫び、興奮気味に通路へ足を踏み入れた。イシェは少し遅れてテルヘルに視線を向けた。彼女の表情は相変わらず冷静だったが、わずかに唇の端が上向きに動いていた。
「さあ、進もう」
テルヘルはそう言うと、ラーンの後を追いかけるように通路へと進んでいった。イシェは最後に振り返り、崩れた石壁から見える遺跡の風景をじっと見つめた。そこに隠された真実は何なのか、そしてテルヘルの真の目的とは何か。彼女は胸に秘めた不安と共に、未知なる世界へと足を踏み入れた。