ビレーの市場は活気に満ちていた。日差しが容赦なく照りつける中、人々の叫び声や物売りの勧誘が入り交じり、独特のリズムを奏でている。ラーンはイシェに引っ張られるように、雑踏の中を歩いていた。「今日はいい日だなぁ」とラーンは目を細めながら言った。イシェは苦笑した。「いい日? いつもと同じじゃないか」。
「いや、違うんだ。今日は何かいいことが起こる予感がするんだよ!」ラーンの言葉にイシェはため息をついた。「そんなこと言ってても何も変わらないよ」。
二人は小さな食堂で昼食を取った。粗末なパンとスープだが、ラーンにとっては十分だった。食べ終わると、ラーンは立ち上がって、「よし!今日は遺跡だ!」と叫んだ。イシェは「また無駄な時間を費やすのか」と内心思ったが、ラーンの熱気に押されて結局ついて行くことにした。
ビレーの住民にとって遺跡探索は日常茶飯事だった。しかし、大抵は貧しい庶民が、わずかな金で危険な場所へ飛び込む羽目になる。彼らは夢を追い求める者もいれば、食うや食わずの生活をしのぐために仕方なく働く者もいた。
ラーンとイシェが遺跡へ向かう道すがら、彼らは疲れた顔をした老人に遭遇した。「あの遺跡は危険だぞ」と老人は警告した。「最近、奇妙な音が聞こえてくるらしい。何かの悪霊が棲んでいるかもしれない」。ラーンは「そんなの気にしないよ!」と笑い飛ばしたが、イシェは老人の言葉を無視できなかった。
遺跡の入り口には、何人かの人影があった。彼らは疲れ切った顔で、重い荷物を運んでいた。どうやら、最近発見された遺跡から持ち出された遺物のようだ。イシェは彼らの様子を見て、ますます不安になった。
「本当に大丈夫なのか?」とイシェがラーンに尋ねると、「大丈夫だ!俺たちにはテルヘルがいるんだろ?」とラーンは自信満々に答えた。テルヘルは強力な魔術使いで、遺跡探索の際には必ず同行していた。彼女の存在は彼らにとって大きな支えだった。
遺跡に入ると、薄暗く湿った空気が彼らを襲ってきた。壁には奇妙な模様が刻まれており、不気味な影が壁に揺れているように見えた。イシェは背筋を凍りつかせるような恐怖を感じた。