「よし、今日はあの廃墟の奥深くまで行ってみるか」ラーンが目を輝かせた。イシェは眉間にしわを寄せながら地図を広げた。「あの区域は崩落箇所が多いぞ。無理な探索は危険だ」
「大丈夫だよ、イシェ。俺が先頭を切って道を開くから」ラーンは自信たっぷりに笑った。テルヘルは彼らを見下ろすように言った。「慎重に。遺跡は美しい庭のようなものだが、その花には毒を持つ棘があることも忘れるな」
彼らは廃墟へと足を踏み入れた。崩れた石柱や朽ち果てた壁が、かつて栄華を極めた文明の残骸を物語っていた。ラーンは興奮気味に遺物に触れ、イシェは周囲を警戒しながら進んだ。テルヘルは後方から二人を見つめ、時折メモ帳に何かを書き留めていた。
奥へ進むにつれて空気が重くなり、不気味な静寂が支配した。壁には奇妙な文様があしらわれており、まるで警告のように見えた。「ここからは俺たちが手分けして探すか」ラーンが提案すると、イシェは頷いた。テルヘルは「注意しろ。何か異変を感じたらすぐに合図を」と告げた。
ラーンは迷路のような通路を進み、イシェは崩れた天井の下をくぐり抜けた。二人はそれぞれ異なる部屋を発見した。ラーンの部屋には、まるで枯れ果てた花のように色あせた壁画が描かれていた。イシェの部屋には、幾何学的な模様が刻まれた石板が置かれていた。
その時、突然、ラーンの悲鳴が響き渡った。「イシェ!」
イシェは慌てて駆けつけた。ラーンの足元には、巨大な穴が開いており、彼はその淵に滑り落ちそうになっていた。イシェは素早く彼の手を掴み、引き上げた。「大丈夫か?」「ああ…ありがとう」ラーンは息を切らしていた。
その時、イシェが何かを感じ取った。「静かすぎる…」彼女は周囲を見回した。すると、壁から小さな音が聞こえてきた。まるで…虫の羽音のようだった。
「あの音…!」イシェは恐怖で体が凍りついた。それは、かつてこの遺跡を荒廃させたと言われる「庭」を守る者たちの音だったのだ。