ビレーの朝焼けは、いつもより少しだけ鮮やかだった。ラーンが目を覚ますと、イシェがすでに準備をしていた。今日の遺跡は、町から東へ三日の道のり、かつて「星降る谷」と呼ばれた場所にあったという。その谷底には、広大な地下空間が広がると伝えられていた。
「今回は大穴が見つかる予感がするんだ」ラーンは、イシェにそう言いながら、粗末な革袋から剣を取り出した。「テルヘルも言ってただろう?あの遺跡はヴォルダンが何か隠しているらしいって。」
イシェは眉をひそめた。「噂話に振り回されないで。今日の目標は調査とサンプル採取だ。無理な探索はしないこと」
「分かってるよ、分かってるよ」ラーンはそう言って笑ったが、彼の目は興奮で輝いていた。広大な地下空間、そこには何があるのか?想像するだけで胸が高鳴る。
テルヘルは、いつものように冷静沈着だった。「二人とも気を引き締めておけ。今回はヴォルダンとの関係を考えると、特に警戒が必要だ」
三人は、ビレーの石畳を後にし、広大な草原へと足を踏み入れた。太陽が燦々と降り注ぐ空の下、彼らの影は長く伸びていく。道中、イシェは幾度もラーンの無茶な行動を制止した。だが、ラーンの情熱に押されるように、イシェ自身も次第に興奮が高まっていくのを感じた。
星降る谷への道は険しく、広大な草原を抜けると、急峻な山岳地帯が現れた。そこは、かつてヴォルダンとエンノル連合が激突した場所だった。戦いの爪痕はまだ残っており、荒涼とした風景に重苦しい空気が漂っていた。
夕暮れ時、ついに谷底へとたどり着いた。そこには、広大な地下空間が広がっていた。天井から差し込むわずかな光が、石造りの壁を照らし出す。そこは、かつて栄えた文明の遺跡だったのかもしれない。
「すごい…」イシェは息をのんだ。ラーンも言葉を失い、ただ目を輝かせていた。テルヘルは沈黙を守りながら周囲を警戒していた。
広大な地下空間の中心には、巨大な石碑が立っていた。その表面には、複雑な模様が刻まれており、まるで古代の文字のようだった。ラーンの好奇心はさらに掻き立てられ、彼は石碑に近づこうとした。
「待て!」テルヘルが叫んだ。「あの石碑に触れるのは危険だ!ヴォルダンが何かを隠している可能性が高い。触れることで罠が仕掛けられるかもしれない」
ラーンは渋々引き下がった。イシェはテルヘルの警告に同意した。「確かに慎重に進めた方が良い。まずは周囲を探索し、情報を集めよう」
三人は、広大な地下空間を慎重に探索し始めた。壁には、古代の文字が刻まれた石板がいくつも置かれていた。イシェはメモを取りながら、その内容を解読しようと努めた。ラーンは、石碑の近くに落ちている破片を拾い上げ、観察した。テルヘルは常に警戒を怠らず、周囲をくまなく見回していた。
日が暮れ始めると、三人は広大な地下空間から脱出した。疲れた体を引きずりながら、ビレーへと戻っていく。今日の探索では、大穴は見つからなかった。しかし、広大な地下空間の神秘と、そこに隠された秘密への期待は、彼らの心を強く揺さぶっていた。