ラーンの豪快な笑い声がビレーの朝の静けさを破った。イシェは眉間にしわを寄せながら、彼の手を掴んで引っ張った。「まだだ、ラーン。あの遺跡は危険だって言っただろう」。
「大丈夫だって!あの石碑には古代王家の財宝が眠っているって書いてあったぞ?俺たちの人生を変えるチャンスだ!」
ラーンの興奮にイシェはため息をついた。彼の無鉄砲な行動はいつもイシェを不安にさせる。幼い頃から一緒だったラーンを、イシェは深く理解しているつもりだった。彼は楽観的で思いやりがあり、仲間を大切にする優しい心を持っている。だが、その裏には、幼い頃に両親を失ったという深い傷が隠されていることをイシェだけが知っている。
「でも…」とイシェが言うと、背後から低い声が聞こえた。「準備はいいか?二人が何を騒いでいるのかわからないが、無駄な時間を過ごしたくない」
テルヘルは冷たい視線で二人を見下ろしていた。彼女はいつも通り黒革の服に身を包み、鋭い眼光を向ける。幼い頃にヴォルダンから全てを奪われた彼女は、復讐のために生きている。その冷酷さと強さはラーンとイシェには到底真似できないものだった。
「よし、行こう!」ラーンの声が響き渡り、三人は遺跡へと足を踏み入れた。暗い通路を進み、石畳の階段を上ると、巨大な石扉が現れた。扉には古代王家の紋章が刻まれており、その周りには呪文のような文字が複雑に書かれていた。
「よし、イシェ、この呪文を解読して扉を開けろ」ラーンが言ったが、イシェは首を横に振った。「これは難しい…、この文字は見たことのないものだ」。
その時、テルヘルが前に出た。「少し待て」。彼女はゆっくりと石碑に手を伸ばし、指で文字をなぞり始めた。すると、扉に刻まれた紋章が光り始め、ゆっくりと開いていった。
「何をしているんだ?」ラーンは驚いた顔でテルヘルを見た。
「秘密だ」テルヘルは冷たい声で言った。「さあ、中に入ろう」。
三人は遺跡の奥へと進んでいった。そこには、黄金の宝箱が山積みになっており、宝石が散りばめられていた。ラーンは目を輝かせ、興奮した様子で宝箱に駆け寄った。しかし、イシェは何かを察知するような表情で周囲を見回していた。
「待て、ラーン!」イシェが叫んだが、その瞬間、地面が激しく揺れ始めた。遺跡の天井から巨大な石が崩れ落ち、ラーンの前に立ちはだかった。