ラーンが巨大な石の扉を押し開けるようにして遺跡内部へ足を踏み入れた時、イシェは背筋が凍りつくような感覚を覚えた。いつもなら、埃っぽい空気と湿った土の臭いがする遺跡の中だが、今回は何かが違う。
「なんか…変だな」
イシェが呟くと、ラーンも首を傾げた。彼の顔色は薄く、いつもの豪快さが影を潜めている。「確かに…」
テルヘルは冷静に周囲を見回した。「幻術の可能性もある。気を引き締めて行動しよう」
彼女の鋭い視線は、かすかに揺らめく空間に注がれていた。イシェも気がついた。壁の模様が歪んで見えたり、通路の端から何かがちらつき、消えていくように見えるのだ。
「ここは一体…」
ラーンが口を開こうとしたその時、床に幾何学的な模様が浮かび上がり、強烈な光を放った。彼らは目を細め、反射的に顔を背けた。光が収まり、視界がクリアになると、そこは全く違う場所になっていた。
広々とした hall は、宝石で装飾され、天井からは輝く水晶のシャンデリアが下がっている。壁には精巧に描かれた壁画が飾られ、空気を優雅な音楽で満たしている。まるで夢の中に迷い込んだようだった。
「どこだ…ここ…」
ラーンの声が震えていた。イシェは、この光景はまるで幻術で作り出されたもののように思えた。だが、足元の石畳の冷たさや、鼻腔をくすぐる甘い香りは確かにリアルだ。
その時、壁画の一枚に描かれた人物が動き始めた。それは美しい女性の姿で、宝石のような瞳で彼らをじっと見つめている。
「ようこそ、迷い込んだ者たちよ」
その声は、まるで頭の中に直接響いてくるようだった。イシェは背筋をゾッとする感覚を覚えた。これは幻術なのか、それとも何か別のものなのか?
ラーンは恐る恐る女性に尋ねた。「ここは一体どこだ?」
女性はゆっくりと微笑んだ。「ここはあなたの心の奥底にある場所よ」