「準備はいいか?」
ラーンの豪快な声と共に、イシェは小さく頷いた。目の前には、ビレー周辺で最大級の遺跡の一つ、崩れかけた石造りの巨大ピラミッドがあった。
「今回はテルヘルさんが大金を出してくれるって言うから、何か良いものがあるんだろうな」
ラーンがそう言うと、イシェは眉をひそめた。「いつもお金のことばかり考えているなんて…」と呟いた。確かに、テルヘルの依頼で遺跡探索をするようになってから、ラーンの冒険心は増したものの、その裏には金銭的な欲求が渦巻いているように思えた。
「いい加減にしろ、イシェ。お前も大穴を掘り当てたいんでしょ?」
ラーンの言葉に、イシェは何も言えなかった。確かに、いつか自分たちの力で莫大な財宝を見つける夢を抱いていた。でも、それはいつの頃からか、漠然とした希望になっていた。
テルヘルが後ろから近づいてきて、三人の前に広げられた古い地図を指差した。「ここだ。このピラミッドの最奥部に、ヴォルダンに奪われた私の大切なものがある」
その目は冷酷に輝き、復讐心を燃やしていた。ラーンはテルヘルの言葉に少しだけ躊躇したように見えたが、イシェは冷静に地図を睨みつけた。
「準備はいいか?」
テルヘルが繰り返す問いかけに、ラーンとイシェは互いに頷き合った。三人はピラミッドへと続く石畳の道を歩き始めた。夕暮れの光が、崩れかけた遺跡に長く影を落としていた。