「よし、今回はあの崩れかけた塔だな」
ラーンが拳を握りしめた。イシェは眉間に皺を寄せながら地図を広げた。
「また遺跡?ラーン、そろそろ別の仕事も考えた方がいいんじゃないのか?」
「いや、イシェ。いつか大穴を見つけるんだ。あいつらもそう信じてくれているだろ?」
ラーンの視線がテルヘルに向かう。彼女は静かに剣を研ぎ澄ましていた。その鋭い眼光はどこか遠くを見据えているようだった。
「大穴…か。確かに、あの塔には古い噂があった」
テルヘルの言葉にラーンが興奮したように頷く。イシェはため息をついた。
「あの塔は危険だって聞いたことがあるわ。何年も前に崩落したらしいし、中に何かがいるって話も…」
「そんなこと気にすんなって!イシェ、お前はいつも怖がりだな」
ラーンの言葉にイシェは苦笑する。だが、彼女の心には不安が渦巻いていた。あの塔の遺跡探索は危険すぎるような気がしていた。
ビレーを出発して数日後、彼らは崩れかけた塔の前にたどり着いた。朽ち果てた石造りの門の下から、不気味な影が伸びていた。
「ここか…」
テルヘルが呟いた。ラーンの胸が高鳴った。ついに大穴が見つかるかもしれない。イシェは不安を押し殺しながら、剣を握りしめた。
塔の中は暗く湿っていた。埃っぽい空気が彼らの喉に引っかかる。壁には奇妙な模様が刻まれており、不気味な光を放っている。
「気をつけろ。何かいるかもしれない」
テルヘルの声が響き渡った。ラーンは剣を構え、イシェは後ろから彼を守りながら進んだ。
塔の奥深くへと進むにつれて、空気が重くなっていった。そして、彼らはついに広間に出た。そこには、巨大な祭壇が置かれていた。祭壇の上には、金色の光を放つ球体が浮かんでいた。
「あれが…大穴か?」
ラーンの声が震えた。イシェは目を丸くする。だが、その時だ。地面が激しく揺れた。壁から石が崩れ落ち、巨大な影が彼らを襲ってきた。
「逃げろ!」
テルヘルが叫んだ。ラーンはイシェを引っ張り、必死に塔の外へ走った。後ろからは轟音と共に何かが追いかけてくる音がした。
彼らは何とか塔から脱出した。振り返ると、塔全体が崩れ始めていた。巨大な影は彼らを狙うように空中に浮かんでいた。
「何だあの影は…」
イシェが震える声で言った。ラーンは彼女を抱きしめ、力を込めて答えた。
「今は逃げろ!後で考える」
彼らはビレーへと戻った。しかし、あの塔の出来事は彼らの心に深く刻まれた。そして、イシェの心の中には、故郷への強い思いが芽生えていた。いつか、あの影と向き合わなければならない時が来るだろう。そして、その時に備えて、彼女は故郷で力を蓄える決意をした。