ラーンの大斧が石壁を打ち砕き、埃が舞った。
「よし、ここだ！」
ラーンの興奮した声にイシェはため息をついた。いつも通りのパターンだ。計画性ゼロで、単なる力技で遺跡の奥へ進むラーンについていくのは疲弊する。だが、彼の無謀な行動にはどこか魅力があり、イシェを惹きつけるものがあった。
「本当にここなのか？何か変だな」
イシェが慎重に周囲を観察すると、壁一面に奇妙な記号が刻まれていた。
「見たことのない文字だ…」
イシェは眉間に皺を寄せながら、記号をなぞった。すると、壁がわずかに光り始めた。
その時、背後から冷たい声が響いた。
「面白い発見ですね」
テルヘルが鋭い眼光で記号を見つめていた。
「この遺跡には何か秘密があるようです。我々がここに来た目的とは違うものかもしれません」
テルヘルの言葉にラーンは一瞬戸惑ったが、すぐに興奮した表情を取り戻した。
「大穴だ！必ず大穴が見つかる！」
ラーンの瞳には、いつも通りの熱意が宿っていた。イシェは彼を静かに見守りながら、内心でため息をついた。
「大穴」とは、伝説の遺跡に眠るという莫大な富のことである。ビレーの人々にとって、それは希望であり、夢であり、憧憬の対象だった。だが、イシェは現実主義者だ。
「市井」では、そんな夢物語を信じる者は子供だけだと思っていた。しかし、ラーンの純粋な熱意と、テルヘルの冷徹な計算が絡み合うこの奇妙な関係の中で、イシェ自身も何かが変わっていくのを感じていた。
壁に刻まれた記号は、彼らを未知の世界へと導き出す鍵となるのだろうか。