「準備はいいか?」テルヘルが鋭い視線をラーンとイシェに向けた。二人は互いに頷き、緊張した面持ちで遺跡の入り口を見つめた。
ビレーの住民にとっては日常的な光景だが、今日も彼らの前に広がるのは未知なる空間だった。埃っぽい空気に混じる湿った土の匂いが、冒険心を掻き立てる。ラーンの心は躍り立っていたが、イシェはいつものように冷静に周囲を警戒していた。テルヘルは地図を広げ、複雑な記号を指さしながら指示を出す。「今回はここを狙う。古い記録によると、この場所に強力な魔物が封印されているという噂だ。」
ラーンの顔色が変わった。「魔物か…?」彼は一瞬躊躇したが、すぐにいつもの豪快な笑みを浮かべた。「そんなもん怖くない!俺様は最強の剣士だぜ!」イシェはため息をつきながら、彼の肩を軽く叩いた。「落ち着いて。計画通りに進めれば大丈夫だ。」テルヘルは二人のやり取りを見つめ、口元を僅かに曲げた。
遺跡内部は暗く、湿った空気で満たされていた。足元には滑りやすい石畳が広がり、天井からは鍾乳石がぶら下がっていた。ラーンの持つランタンの火が、壁に描かれた奇妙な模様を浮かび上がらせる。イシェは慎重に前を進み、時折後ろを振り返って確認していた。
やがて、彼らは広大な地下空間へとたどり着いた。中央には巨大な石棺が置かれており、その周りを奇妙なシンボルで飾られた祭壇が囲んでいた。ラーンの目が輝き始めた。「ここだ!きっと何か大物が見つかるぞ!」彼は興奮気味に石棺に近づこうとしたが、テルヘルが彼を制止した。「待て、ラーン。まずは周囲を確認する必要がある。」
テルヘルは祭壇に刻まれたシンボルを注意深く観察し、何かを呟いた。イシェも同様に、壁に描かれた模様を分析していた。二人は互いに言葉を交わさずとも、共通の認識を共有しているように見えた。ラーンの無計画な行動とは対照的に、彼らは綿密な計算に基づいて動いていたのだ。
その時、石棺から不気味な音が響き渡り、地面が震え始めた。「魔物だ!」ラーンは剣を抜き、戦いの構えを取った。イシェも daggersを手に取り、警戒姿勢に入った。テルヘルは冷静に状況を分析し、指示を出す。「ラーン、お前は正面から攻撃しろ!イシェ、お前は側面から援護するんだ。」
三人は息を合わせ、魔物との戦いに臨んだ。激しい戦いが繰り広げられ、遺跡は轟音と剣のぶつかり合う音で満たされた。ラーンの力強い攻撃、イシェの機敏な動き、そしてテルヘルの的確な指示が組み合わさることで、彼らは徐々に優位に立つことができた。
しかし、魔物は頑強な抵抗を続け、三人に深い傷を負わせることもあった。ラーンの剣は折れ、イシェは足に矢を受けて苦痛に歪んだ顔で戦いを続けた。テルヘルは冷静さを保ち、自分の命を危険にさらすことなく、状況をコントロールしようと努めた。
その時、彼女は魔物の弱点を見つけた。わずかに開いた隙を狙い、テルヘルは秘めた力を解放した。その瞬間、遺跡は強烈な光に包まれた。魔物は悲鳴を上げながら消滅し、静寂が戻ってきた。
三人は疲弊しながら立ち上がり、互いに安堵の表情を交わした。激しい戦いの後、彼らは勝利を分かち合っていた。しかし、彼らの心には、どこか満たされないものがあった。それは、この戦いが「差配」されたものなのか、それとも偶然の一致なのかという、自分たちでは答えられない問いだった。