「よし、ここだな！」ラーンが興奮気味に石版を指差した。イシェは眉間にしわを寄せながら地図と照らし合わせて確認する。「本当にここに遺跡があるのか？ いつもそう言っては結局…」
「今回は違う！ この記号、見たことあるだろ？」ラーンは熱っぽく言った。イシェは確かに見覚えのある記号だった。古い書物に載っていた、ヴォルダンがかつて支配していた地域で見つかった遺物の記録と酷似している。
「でも、なぜこんな辺境の場所に？」イシェは疑問を口にした。「ヴォルダン帝国の遺跡なら、もっと中心部にあるはずだ」
その時、テルヘルが鋭い視線で二人を見据えた。「この遺跡には、ヴォルダンの技術革新に欠かせないものがあるという噂だ。あの国が急速に発展した理由の一つは、この地に眠る何かではないか」
ラーンの目が輝き始めた。「つまり、大穴だ！？」
テルヘルは冷めた口調で言った。「大穴かどうかは分からない。だが、ヴォルダンにとって価値のあるものだと確信している」
３人は遺跡の入り口へと足を踏み入れた。そこは、錆び付いた金属片や、奇妙な形状の歯車が無造作に散らばる場所だった。まるで、かつて巨大な機械が存在していたかのようだった。
「これは…一体何だ？」イシェが恐る恐る触れた金属片は、驚くほど軽く、触り心地は滑らかだった。「こんな高度な技術、あの時代のヴォルダン帝国ですら…」
ラーンは興奮気味に遺跡の奥へと進んでいった。彼の足取りは軽やかで、まるで冒険家のように楽しげだ。イシェは彼を追いかけるようにしながら、周囲を警戒する。テルヘルは二人よりも後方で、静かに周囲を観察していた。彼女の目は鋭く、そしてどこか悲しげだった。
遺跡の奥深くには、巨大な機械の一部が残されていた。それは複雑に絡み合った歯車やパイプで構成され、まるで巨大な心臓のようだった。その中心には、奇妙な結晶が輝いている。
「これは…」イシェは言葉を失った。この結晶は、かつてヴォルダン帝国で使用していたエネルギー源の痕跡ではないか？ 噂では、それは無限のエネルギーを秘めたと言われる「永遠の炎」と呼ばれるものであった。
ラーンは興奮を抑えきれずに近づこうとしたが、テルヘルが彼を制した。「待て！ まだ分からない。この結晶に触れると、何が起こるかわからない」
その時、遺跡の奥の方から、不気味な音が聞こえてきた。まるで金属が擦れ合う音だった。そして、その音は徐々に大きくなっていき、やがて轟音となって響き渡った。
「何だあの音！」ラーンは驚いて叫んだ。
イシェも同様に恐怖を感じていた。「何かが近づいている！逃げろ！」
３人は慌てて遺跡から逃げるように外へ飛び出した。振り返ると、遺跡の入り口付近から、巨大な機械が姿を現した。それはまるで、古代の巨人や悪魔を彷彿とさせる、恐ろしい姿だった。その目は赤く燃え盛っており、口からは黒い煙を吐き出していた。
「ヴォルダン帝国の兵器…！」テルヘルは息をのんだ。「まさか、こんなものが…」
３人は逃げ惑う中、ラーンの足がもつれた。彼は転倒し、立ち上がる前に機械の巨腕に捕らえられてしまった。
「ラーン！」イシェとテルヘルが同時に叫んだ。
機械はラーンをゆっくりと持ち上げ、口へと近づけた。彼の顔には恐怖の色が浮かんでいた。その時、イシェが自分の持つ小さなナイフを振りかぶって機械の目に向けて投げつけた。ナイフは命中し、機械の目は一瞬光を失った。その隙に、テルヘルが機械の腕に飛び乗り、剣を突き刺した。
機械は悲鳴を上げ、ラーンを放り投げた。３人はなんとか逃げ延びることができたが、ラーンは重傷を負っていた。
「…ヴォルダン帝国の技術…恐ろしい…」イシェは震える声で言った。
テルヘルはラーンの様子を見て、静かに言った。「まだ終わっていない。ヴォルダン帝国の秘密は、この遺跡以外にもあるはずだ。そして、それを利用した者もいる」
３人は、傷つきながらも立ち上がった。彼らは、この事件が単なる遺跡探索ではなく、何か大きな陰謀に巻き込まれていることを悟ったのだ。