「おいラーン、今日はあの廃墟都市の遺跡行ってみないか？」イシェが地図を広げながら言った。ラーンの視線は、いつも通り空腹で満たされた料理のほうに向いていた。「ああ、いいよ。あそこの遺物なら価値あるのが見つかるかもな」ラーンは口をへの字に曲げて答えた。
「価値あるものが見つかったら、あの新しい酒場に行って一杯やるぞ！」イシェが続けた。ラーンの目は輝き出した。「よし、行こうぜ！」
二人はいつものようにビレーの街を出発した。廃墟都市の遺跡は、かつて栄華を極めた文明の名残が色濃く残る場所だった。崩れた石造りの建物や、苔むした道、忘れられた彫刻。そこには歴史の重みが静かに漂っていた。
「よし、ここだな」イシェは地図を確認しながら言った。廃墟都市の中心部にある巨大な建造物へと足を踏み入れた。内部は暗く、埃が舞っていた。ラーンは剣を構え、警戒感を増した。イシェは小さなランプを点火し、周囲を照らした。
「あれは…」イシェの声が震えた。「何かいるかも」ラーンの視線は、影に潜むものに向けられた。その時、激しい音が響き渡った。壁の奥から、巨大な怪物が現れた。それは、獣のような姿で、鋭い牙と爪を備えていた。
「逃げろ！」イシェが叫んだ。しかし、ラーンは立ち向かった。「行くぞ！」ラーンの剣が光り、怪物へと斬りかかった。激しい戦いが始まった。イシェは小さな体で機敏に動き、ラーンをサポートした。
その時、背後から弓の音が聞こえた。矢が怪物に命中し、大きな傷跡を残した。振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。黒曜石のような瞳と鋭い視線を持つ女性だった。「テルヘル…」イシェが驚いて声を上げた。
「遅すぎたのか？」テルヘルは静かに言った。「でも、これで終わりだ」彼女は弓を構え、矢を放った。矢は怪物の中心に命中し、強烈な衝撃と共に爆発した。怪物は轟音と共に消滅した。
三人は互いに顔を合わせた。ラーンの顔には疲れと安堵の色が浮かんでいた。イシェはテルヘルに感謝の眼差しを向けた。テルヘルは小さく頷き、何かを言おうとしたその時、崩れかけた天井から大きな石が落下してきた。
ラーンは咄嗟にイシェを庇い、石の雨を浴びた。イシェは恐怖で目を閉じた。しかし、痛みはなかった。彼女は開いた目を瞬きし、ラーンの顔を見た。彼の顔には血が滲んでいた。
「ラーン！」イシェは叫んだ。そして、涙がこぼれ落ちた。
その時、テルヘルがラーンの傷口を手で押さえ、何かを唱え始めた。光が彼女の体から溢れ出し、ラーンの傷口がゆっくりと癒えていった。
三人は互いに助け合い、力を合わせて危機を乗り越えた。それは、ただの偶然の巡り会いであったが、彼らの運命を大きく変える出会いの始まりだった。