「おいラーン、あの崩れかけた壁はどうだ?」イシェが地図を広げながら言った。ビレーから西へ三日の道のりを隔てた遺跡は、かつて栄華を極めた都市だった痕跡が残っているはずだった。だが今は、朽ち果てた石造りの建物群と、荒れ果てた庭園が広がるのみだ。
「ああ、あれだな。確かに崩れてるな」ラーンは肩をすくめた。「でも、中に何かあるとは限らないぜ。あの壁が崩壊した理由もわからんし」
「可能性は捨てられない」テルヘルが冷たく言った。「ここはかつてヴォルダン軍の侵攻によって破壊されたと記録されている。遺跡の中に何らかの秘密兵器が残っている可能性もある。特に、この崩れた壁の下に何か隠されているという噂を聞いたことがある」
イシェは眉間に皺を寄せた。「秘密兵器か…そんな危険な物に触れるのは避けたいな。それに、ヴォルダン軍が持ち去ったはずなのに…」
「何かの理由で残された可能性もある」テルヘルは鋭い目でラーンを見た。「お前はリスクを恐れないだろう?」
ラーンの顔に闘志が燃え上がった。「ああ、もちろんだ。危険ならこそワクワクするんだ!」
イシェはため息をついた。「いつも通りだな…」それでも、彼の視線は崩れた壁に向けられていた。
三人は慎重に崩れた壁の下へと近づき始めた。壁には巨大な亀裂が走り、その内部を覗くと暗闇が広がっていた。
「よし、俺が先に進む!」ラーンが剣を抜き、壁の隙間へ足を踏み入れた。イシェは懐中電灯を点け、テルヘルと共にラーンの後を追った。
崩れた石の下から冷たい風が吹き上げてきた。石畳の床に足音が響くだけで、静寂の世界が広がっているようだった。
「何か見つけたぞ!」ラーンの声が後ろから聞こえた。イシェとテルヘルは急いでラーンの元へ駆け寄ると、彼は興奮した表情で壁の奥底にある機械のようなものを指さしていた。
それは複雑な歯車や管が組み合わされた巨大な装置だった。しかし、一部は崩れ落ち、錆びついていた。
「これは…」イシェは目を丸くした。「こんなものが…」
「これは…秘密兵器?それとも…」テルヘルは装置をじっと見つめた。「ヴォルダンが何らかの実験を行っていた可能性もある」
その時、装置から不気味な音が聞こえてきた。まるで金属同士がこすれるような音だった。
「何だ、あの音?」ラーンの顔色が変わった。
イシェも不安そうに言った。「何か起きるかもしれない…気をつけろ!」
その時、装置から突然、激しい光が放たれた。三人は目を潰されるように眩しい光に包まれた。そして、次の瞬間、装置は巨大な衝撃と共に崩壊した。
崩れ落ちる石や金属の破片が三人を襲う。イシェは咄嗟にラーンを庇い、テルヘルは剣で防御姿勢をとった。
煙が立ち込める中、三人はゆっくりと立ち上がった。周りの景色は、崩壊した装置の破片で埋め尽くされていた。
「みんな無事か?」イシェが声をかけた。
「ああ、俺には大丈夫だ」ラーンは咳き込みながら言った。「だが…」
彼の視線は崩壊した装置の跡に向けられていた。そこにあったはずの装置は完全に消え去り、代わりに巨大な亀裂が広がっていた。まるで、何かが地面に深く沈んでいったかのようだった。
「あの装置…一体何だったんだろう」イシェは茫然とした表情で言った。
テルヘルは静かに言った。「これが、崩壊の始まりなのかもしれない…」