「よし、行こう！」
ラーンの豪快な声がビレーの朝の静けさを打ち破った。イシェはため息をつきながら、彼の後ろをついていった。
「また、あの遺跡か？」
「ああ、聞いただろ？あの奥に秘宝が眠ってるって話だぞ！今回は必ず大穴になる！」
ラーンの目は輝いていた。イシェはそんな彼を見つめ、小さく苦笑した。ラーンはいつもそうだった。大穴を夢見て、今日もまた危険な遺跡へと向かう。
「テルヘルさん、準備はいいですか？」
イシェが声をかけると、後ろからテルヘルが近づいてきた。彼女はいつも冷静で、その鋭い目は周囲を警戒しているようだった。
「準備は整った。あの遺跡には強力な結界があると言われている。注意深く行動する必要があるだろう。」
テルヘルはそう言うと、三人の前に広がる山道を見下ろした。かつて栄えた文明の遺跡は、今は朽ち果てた石造りの壁と崩れかけた塔だけが残り、その周りには危険な罠が仕掛けられているという。
「よし、行こう！」
ラーンは、剣を腰に当てると、真っ先に遺跡へと入っていった。イシェはため息をつきながら、テルヘルに視線を合わせた。
テルヘルの表情はいつもと変わらず冷静だったが、イシェは彼女の目の中に、どこか切ない光を感じた。
遺跡の奥深くでは、ラーンが興奮気味に石板を指差していた。
「見てみろ！これは何だ？」
石板には複雑な文字が刻まれていた。イシェは歴史書で見たことのある古代文明の文字だと認識した。
「これは…ヴォルダン帝国の紋章だ…」
イシェの声に、テルヘルは硬直した。彼女の瞳孔がわずかに dilated して、握りしめていた拳が白くなった。
「ヴォルダン…」
テルヘルは呟いた。その声には、深い憎しみと悲痛が込められていた。イシェは一瞬、テルヘルの過去を垣間見たような気がした。そして、この遺跡に眠る真実が、テルヘルの復讐と深く関わっていることを悟った。
ラーンは、歴史の重みに気づかずに、興奮気味に石板を触ろうとした。イシェは慌ててラーンの腕をつかみ、引き戻した。
「待て！これは触ってはいけない！」
イシェの声が響き渡る中、遺跡の奥から不気味な音が聞こえてきた。それはまるで、眠りを覚ました巨大な獣の咆哮のようだった。
「逃げろ！」