ラーンが巨大な石扉を押し開けたとき、埃っぽく冷たく湿った空気が彼らを包み込んだ。イシェは鼻をつまんで「またこの臭い…」と呟いた。
「よし、ここだ！きっと大穴があるはずだ！」
ラーンの目は輝き、剣を構える。いつも通り、興奮した様子で遺跡に飛び込もうとする。イシェはため息をつきながら、テルヘルの方を見た。彼女は石扉の奥深くを見つめ、何かを考え込んでいるようだった。
「この遺跡、地図には載ってないぞ」イシェが言った。「一体どこから聞きつけたんだ？」
テルヘルはゆっくりと首を振った。「情報は価値がある。その程度のこと、聞く必要はないでしょう。」
ラーンは気にせず、石畳の道を進んでいった。崩れかけた柱や壁に刻まれた奇妙な文字が、遺跡の古びた姿を物語っていた。イシェは地図を広げながら、慎重に足取りを確かめた。テルヘルは後ろから二人を見つめ、時折唇を動かした。まるで呪文を唱えるように。
奥へと進むにつれ、空気が重くなっていった。不気味な静けさと湿った冷たさが、彼らの心に影を落とす。ラーンはそんな雰囲気に全く気づいておらず、遺跡の奥深くにあると信じる「大穴」に夢中だった。イシェは不安を感じながら、テルヘルの後ろ姿に目をやると、彼女は背中に何かを背負っているように見えた。
ついに彼らは巨大な部屋にたどり着いた。中央には祭壇があり、その上には輝く宝石が置かれていた。ラーンの目は輝き、「ついに大穴だ！」と叫んだ。イシェは宝石の美しさに目を奪われたが、同時に不気味な予感を感じた。
その時、床から黒い煙が立ち上がり、部屋中に広がった。煙の中から影のようなものが現れ、ラーンに襲いかかった。彼は剣を振り下ろしたが、影は素早くかわし、ラーンの腕を掴んで地面に叩きつけた。
「ぐわっ！」
ラーンの叫び声が響いた。イシェは驚いて後ずさりした。テルヘルは冷静に状況を見極め、影に向かって手を伸ばした。彼女の指先に光が走り、影に刺さった。影は悲鳴を上げて消滅した。
ラーンは痛みに顔を歪めていた。「何だあの影は…！」
イシェが駆け寄ると、ラーンの腕には鋭い爪痕が残っていた。
「これは…」
イシェは言葉を失った。テルヘルはゆっくりと頷き、「ここは聖域だった。そして、お前たちはその封印を解いた」と言った。
ラーンの顔色は青ざめた。「…封印？」
テルヘルは冷酷な笑みを浮かべた。「この遺跡はヴォルダンが恐れるもの、屈辱の象徴を封印する場所だ。お前たちがそれを解き放ったのだ。」
イシェは恐怖で震えた。ラーンが宝石に向かって手を伸ばそうとしたとき、テルヘルは彼を制止した。
「もう遅い。お前たちはすでにその罰を受けることになる」
その時、部屋の壁が崩れ始め、外から何かが迫ってくる音が聞こえてきた。ラーンの顔には絶望の色が広がった。
「…大穴…」彼は呟いた。「結局、大穴は…」