ラーンが巨大な石の扉をこじ開けると、埃っぽい空気が充満した部屋が広がった。イシェが小さなランプを掲げると、壁一面に古代文字が刻まれているのが見えた。
「また読めないか?」
ラーンの期待を打ち砕くように、イシェは肩をすくめた。
「うん、これでもう少し知識があれば…」
イシェの視線は、部屋の奥にある石棺に向けられた。そこに眠る遺物こそが、今回の依頼主であるテルヘルが求めるものだった。
「よし、これで準備はいいな」
ラーンの言葉に、テルヘルが小さく頷いた。彼女はいつもより表情が硬く、どこか落ち着きがない。
「急ぐ必要があるのか?」
イシェが尋ねると、テルヘルは少しだけ視線を逸らした。
「そうだな…時間との勝負だ」
その言葉の意味を理解したラーンは、イシェに無言で頷いた。二人はテルヘルの後をついて、石棺へとゆっくりと近づいていった。棺の上には、少量の赤い粉末が散りばめられており、不気味な光を放っていた。
「これは…」
イシェが言葉を失うと、ラーンは本能的に剣を抜いた。その瞬間、棺から黒い煙が噴き出し、部屋中に広がった。煙の中にテルヘルの姿が歪んで見え、彼女の瞳が燃えるような赤い光に染まっているように見えた。
「これは…!」
イシェの叫びが、埃っぽい空間にこだました。