ビレーの酒場にはいつもより多くの人が詰めかけていた。いつもならラーンの豪快な笑い声が響き渡るはずだが、今日はイシェの眉間に皺が寄っているのが目立つ。「あの噂…本当なのか?」と彼女は不安げに呟いた。
ラーンは「そんなもん気にすんなよ」と肩を叩いたが、彼自身の表情も硬かった。「何人か、遺跡探索で姿を消したって話だ」イシェは続けた。「ヴォルダンからの使者だとも聞いている。あの辺りには危険な遺跡が多いからな…」
ラーンの顔色を変えたのは、イシェの言葉ではなく、その後に続くテルヘルの静かな声だった。「噂を鵜呑みにする必要はない」彼女は冷めた視線で周囲を見渡した。「情報操作の可能性もある。我々にとって重要なのは、次の目標だ」
テルヘルは地図を広げ、指を遺跡の位置に置いた。「この遺跡にはヴォルダンが欲しがるものがあると確信している。我々はその前に手をつければ…」
ラーンの視線はテルヘルの顔から、地図の記された遺跡へと移った。その場所はビレーから遠く離れた場所であり、危険な地域として知られていた。「少数精鋭で行くしかない」イシェが言った時、ラーンは決意を固めたような表情を見せた。
「よし、行こう」彼の言葉には、いつもの豪快さはなく、何か別のものがあった。それは仲間への責任感、そして、自分たちだけの「大穴」にたどり着くための決意だった。