ビレーの街はずれ、錆びた看板が風に揺れている遺跡への入り口に、ラーンとイシェは立っていた。小雨が降り始め、冷たい風が吹き始めた。
「今日はやる気ないな、ラーン。」
イシェは薄暗い遺跡の入口をじっと見つめていた。ラーンの顔にはいつもの好戦的な表情はなく、どこか影が落ちていた。
「ああ、そうだな。でも、テルヘルに言われたんだろ？ 今日は必ず何か見つけないと。」
ラーンの声にも力がない。テルヘルの依頼はいつも高額だが、今回は特に金額が高かった。ヴォルダンとの関係で、彼女は最近さらに緊迫した様子だ。
「あの遺跡は危険だって聞いたことがあるよ。小雨が降ると道が滑りやすくなるし…」
イシェの言葉にラーンは苦笑した。「大丈夫だ、俺が先導するから。ほら、行こう。」
二人は遺跡の中へと足を踏み入れた。薄暗い通路は湿気で冷たかった。石畳の上には苔が生え、足元が不安定だった。小雨は激しさを増し、遺跡の天井に打ち付けられる音が響き渡る。
「本当にここに入るのはやめた方がいいんじゃないか…」
イシェは不安そうに言った。ラーンの背中は小さく見えた。
その時、奥からかすかな光が見えた。ラーンは目を輝かせ、イシェの手を引っ張った。「あれだ！ 行こう！」
二人は光のほうへ急いだ。道はさらに険しくなっていたが、二人は希望に胸を躍らせて進んだ。
しかし、その光は罠だった。足元に仕掛けられた石板が崩れ、ラーンは深い穴に転落した。イシェは必死に彼の手を掴もうとしたが、滑り落ちたラーンの手を離してしまった。
「ラーーン！」
イシェの叫びは、小雨音と遺跡の崩れる音でかき消された。暗い穴の中には、ラーンの姿が見えなくなった。