ビレーの朝露が乾く頃、ラーンはいつものようにイシェを起こした。今日も遺跡だ。
「起きろ、起きろ！今日はあの小遺跡に挑戦するぞ！」
イシェは眠ぼけで「いい加減にしろ」と呟きながらも、ベッドから這い上がった。小さな部屋に置かれた粗末なテーブルの上には、ラーンが用意したパンとチーズが並んでいた。イシェは小さくため息をついた。「また大穴の話か？」
「もちろんだ！いつかあの小遺跡で、巨大な宝石を見つけてやるんだ！」
ラーンの瞳は輝いていた。イシェはその瞳にいつも引っ張られるように、結局頷いてしまう。二人にとって、小さな希望を繋ぐ唯一の綱だったから。
今日はテルヘルが彼らの前に立ちはだかる壁だった。彼女は、いつもより早くビレーに到着していた。テーブルの上には、小さな地図と一枚の羊皮紙が広げられていた。
「今日の目標はここだ」とテルヘルは言った。地図に示されたのは、ビレーから少し離れた場所にある、小さな遺跡だった。「そこにはヴォルダンが隠したという情報がある。我々がそれを手に入れるには、この小遺跡を攻略しなければならない。」
ラーンは目を輝かせた。「よし、やろうぜ！」
イシェは小さくため息をついた。テルヘルの目的はいつも謎に包まれていた。しかし、彼らにとって、小さな報酬を得るための手段の一つだった。
遺跡への道は険しく、小石が転がる狭い通路を進むにつれ、イシェの不安は増していった。ラーンの後ろをついていく彼女の足取りは小さく、息遣いも浅くなっていた。
遺跡の入り口には、錆びた小さな扉があった。ラーンは力任せに扉を開き、中へと飛び込んだ。イシェは小さな懐中電灯を手に、ゆっくりと扉の隙間から中を覗いた。薄暗い空間の中に、埃が舞うだけで何も見えなかった。
「大丈夫か？」テルヘルが声をかけた。イシェは小さく頷き、二人に続いて遺跡の中へ入った。
遺跡内部は狭い通路で構成されていた。天井からは小さな石が落ちてくる音が聞こえた。ラーンは先頭を歩き、イシェとテルヘルが後ろをついていく。イシェは緊張した様子で周囲を見回していた。
突然、ラーンの足元から小さな音が聞こえてきた。「なんだ？」ラーンが足を止めた。イシェもすぐにラーンの横へ行き、懐中電灯の光を足元に当てた。そこには、小さな箱があった。
「宝箱だ！」ラーンは興奮した様子で、箱に手を伸ばそうとした。しかし、イシェは彼を引き止めた。「待て！もしかしたら罠が仕掛けられているかもしれない。」
イシェは慎重に箱を調べ始めた。箱の表面には複雑な模様が刻まれており、小さな鍵穴が開いていた。イシェは小さくため息をつきながら、懐中から小さな金槌を取り出した。
「開けてみよう」とイシェは言った。ラーンの期待感とテルヘルの冷たい視線を感じながら、彼女はゆっくりと箱の蓋を開けた。そこには、小さな宝石が一つだけ入っていた。
ラーンは肩を落とした。「なんだ、これ？」イシェは小さく笑った。「でも、小さな宝石でも宝だ」と。テルヘルは黙って宝石を受け取り、ポケットにしまった。
遺跡から出た時、空は茜色に染まっていた。ビレーの街灯がぼんやりと光り始めた。三人は疲れ果てながらも、小さな宝石を手に、帰路についた。