ラーンが巨大な石の扉を押す音だけが、遺跡の静寂を破った。イシェは後ろから「本当に開くのか?」と不安そうに呟いたが、ラーンは自信満々に笑みを浮かべた。
「大丈夫だ。あの古代の記号を見たか?確かにここを開ける方法を記していたぞ」
扉が軋む音を立ててゆっくりと開き、薄暗い通路が現れた。イシェは懐中電灯を点け、一歩踏み出した。
「いつも通りの大穴には見えないな…」
ラーンの言葉に、イシェも同意した。遺跡の奥深くで発見される遺物や財宝は、そのほとんどが朽ち果てた装飾品や壊れた武器だった。だが、稀に貴重な資料や稼ぎになる宝石が見つかることもあった。それが彼らを遺跡探索へと駆り立てる原動力だった。
しかし、今回は違う。テルヘルからの依頼は、「ヴォルダンに奪われたもの」を取り戻すことだった。その具体的な内容については何も教えてくれなかったが、彼女の眼差しには深い憎しみと、何かを成し遂げなければならないという強い決意が宿っていた。
通路を進んでいくと、壁に奇妙な模様が描かれていることに気がついた。イシェは手を伸ばして触れてみた。「これは…?」
その瞬間、壁から冷たい風が吹き出し、イシェを押し倒した。ラーンは慌てて駆け寄り、イシェの手を掴んだ。
「大丈夫か!?」
イシェは顔色が悪かったが、うなずいて立ち上がった。
「何かあったのか?」
テルヘルが後ろからゆっくりと近づき、壁の模様を見つめた。「これは…古代ヴォルダンの紋章だ」
彼女の瞳に、かつて奪われたものへの強い執着と、復讐心が見え隠れしていた。ラーンはイシェを後ろに守りながら、剣を抜いた。
「何をするつもりだ?」
テルヘルはゆっくりと剣を抜く動作を見せた。「私の尊厳を取り戻すために」