ビレーの薄暗い酒場の一角で、ラーンはイシェに向かって唸り声を上げた。「また遺跡探検か? 今日はいい日だぞ! 大穴が見つかる予感がする!」
イシェは眉間にしわを寄せながら、ラーンの熱意に冷めた目で対した。「そんな大穴なんて、存在するわけないだろう。現実を見ろよ、ラーン。」
「いや、でもさ…」ラーンの言葉が途切れると、背後から一人の女性の声が響いた。
「現実? 現実とは何かを、教えてくれるのですか?」
ラーンとイシェは振り返ると、テルヘルが鋭い眼差しで二人を見下ろしていた。彼女の唇はわずかに上向きに反り、どこか嘲笑を含んだ表情だった。
「今日は、あなたがたに特別な仕事がある。」テルヘルはテーブルの上に地図を広げ、指で特定の場所をなぞった。「この遺跡だ。そこには、ヴォルダンが隠している秘密がある。私が手に入れたいものがある。」
ラーンとイシェは顔を見合わせた。テルヘルの目的はいつも曖昧だったが、今回はどこか重苦しい雰囲気を感じた。
「何が欲しいんだ?」ラーンの言葉に、テルヘルは静かに微笑んだ。
「それは、あなたがたが探検中に知るでしょう。」
遺跡の入り口前で、ラーンとイシェは互いに緊張した表情を浮かべていた。テルヘルの目的は不明だが、彼女の言葉には強い意志を感じられた。
「何か変だ…」イシェは小声で言った。「テルヘルはいつも以上に冷酷な気がする。」
ラーンの顔も曇り始めた。「ああ… 確かに。何か大きなことが起こる予感がする。」
二人は互いの視線を交わし、深く息を吸った。遺跡への入り口に足を踏み入れると同時に、彼らの人生は大きく変わっていくのを感じた。
暗い洞窟の中を進んでいくにつれて、不気味な空気が二人を包み始めた。壁には不規則な模様が刻まれ、時折、不気味な音が響く。ラーンの背筋がゾッとするのを抑えられなかった。
「イシェ…」ラーンは低い声で言った。「何かを感じないか?」
イシェは首をゆっくりと左右に振った。「いいえ… 何も感じない。」
だが、彼女の瞳には不安の色が浮かんでいた。
突然、洞窟の奥から、激しい光が炸裂した。ラーンとイシェは目を細めて光源の方へと視線を向けると、そこにはテルヘルが立っていた。そして、彼女の後ろには、巨大な石像が光り輝いていた。
「見つけた…」テルヘルは低い声で呟いた。「ヴォルダンに奪われたもの… 私のものだ。」
ラーンの心の中で、何かが大きく崩れ落ちていった。彼はテルヘルの言葉の意味を理解した。彼女は復讐のために、遺跡を探っていたのだ。そして、その目的達成のためなら、どんな手段も厭わないだろう。
ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。二人の間に、沈黙が重くのしかかった。彼らは、今まさに、テルヘルの野望に巻き込まれようとしていることを悟った。