ビレーの酒場「黄金の蛇」はいつも以上に騒がしかった。ラーンの豪快な笑い声とイシェの乾いた皮肉が混ざり合い、常連客たちも彼らのやり取りを楽しんでいるようだった。しかし、テルヘルは眉間に皺を寄せて、酒を一口飲んだだけでテーブルを叩いた。
「もういいだろう。次の遺跡はどこだ？」
ラーンは少しだけ驚いて、イシェに目配せした。イシェは小さくため息をつきながら、テルヘルの視線に屈するようだった。
「あの、テルヘルさん。実は今日の探索で…」
「何だ？何か問題か？」
テルヘルは鋭い眼差しでラーンを見据えた。ラーンの表情が曇るのを彼女は知っていた。
「あの…実は、今日の遺跡は…」
イシェが言葉を濁すと、ラーンが割り込んだ。
「いや、僕たちが探す遺跡の情報は、いつも通りだ！」
彼は無理に笑顔を浮かべた。だが、テルヘルの目は彼の嘘を見抜いていた。
「本当か？」
テルヘルはゆっくりと立ち上がり、ラーンの目の前でテーブルを叩いた。その音は酒場の喧騒よりも大きかった。
「お前たちは一体何を隠しているんだ？」
ラーンの顔色が変わった。イシェが彼の手を握りしめると、彼はようやく真実を告げた。
「あの…実は、今日の遺跡の情報は…」
ラーンは言葉を詰まらせた。テルヘルは彼の目をじっと見つめていた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「わかった。お前たちは私に嘘をついたのだな」
ラーンの顔から血の気が引いた。イシェが彼を庇おうとしたが、テルヘルは彼女を黙らせようとしない。
「私はお前たちに恩を売ったわけではない。お前たちが必要だ。ヴォルダンへの復讐のためだ」
彼女の目は冷酷に輝いていた。ラーンは恐怖で言葉を失った。イシェは彼の肩を叩き、沈黙した。
「わかった。次の遺跡はどこだ？」
テルヘルはそう言い放ち、酒場から出ていった。ラーンとイシェだけが、凍りつくような空気に立ち尽くされていた。