ビレーの朝は早かった。まだ薄暗い空の下、ラーンがイシェを起こしに来た。イシェはいつものように布団から顔だけ出して、眠そうな目でラーンを見た。
「今日はテルヘルが待ってるんだぞ。早く準備しろよ。」
イシェは小さくため息をつきながら布団から這い出した。ラーンの言葉通り、テルヘルは既にビレーの入り口で馬に乗ったまま待っていた。彼女の顔は険しく、何かを考え込んでいるようだった。
「今日はあの遺跡に入るんだろ?噂ではそこには危険な罠が仕掛けられているって聞いたぞ。」
イシェは心配そうにラーンに言った。ラーンの豪快な笑いは、イシェの不安を少し和らげたように見えた。
「大丈夫だ、イシェ。俺たちにはテルヘルがいるじゃないか。あの女ならどんな罠も突破できるさ。」
ラーンの言葉が自信にあふれているように聞こえたが、イシェは彼の笑顔の裏にある緊張を感じ取っていた。テルヘルの目的は遺跡の宝ではなく、ヴォルダンへの復讐だった。そのために、彼女は何を犠牲にするのか。イシェは不安に駆られた。
テルヘルは馬から降りると、無言で三人の前に立ち止まった。彼女の視線は鋭く、まるで獲物を狙う獣のようだった。ラーンとイシェが遺跡へ向かう準備をしている間、彼女はただ静かにその様子を見つめていた。
遺跡への道は険しく、急斜面を登り続ける必要があった。イシェは息切れしながら後ろを振り返ると、テルヘルが彼らをじっと見つめていることに気が付いた。彼女の顔には表情がほとんどなく、ただ寡黙に歩を進めるだけだった。
イシェはラーンの背中に寄り添いながら、彼の腕に抱きつくようにして歩いた。ラーンの温もりを感じることだけが、イシェの不安を少しだけ和らげてくれた。
遺跡の入り口に到着すると、テルヘルは先に進むことを告げた。彼女は迷わず遺跡へと足を踏み入れ、ラーンとイシェもそれに続いた。遺跡の中は暗く、湿った冷たい風が吹き荒れていた。
ahead.