ラーンが「大穴だ!」と叫ぶその声はいつも通り虚しく響いた。埃っぽい遺跡の奥深く、崩れかけた石の壁の前に立って、ラーンはがっかりした顔で地面を蹴った。イシェはため息をつきながら、背負っていた革袋から水筒を取り出した。「またか…」と呟くと、ラーンの肩に軽く叩きつけた。「今日はもう帰るぞ」
「そう簡単に諦めるなよ、イシェ!」ラーンは剣を片手に壁を叩いてみた。「もしかしたら、奥に何かあるかもしれないぞ!ほら、この傷…見てみろ、これは古代の文字だ!」
イシェは目を細めて壁をよく観察した。確かに、かすれた文字が刻まれているようだった。しかし、その意味は全く不明だった。
「古代の文字か…」イシェはため息をついた。「ラーン、そんな文字を解読できるわけがないだろう。それに、この遺跡は既に何年も探索されているはずだ。もし何か価値のあるものがあれば、すでに取られているはずだ」
「でも、もしかしたら…」ラーンの目は輝いていた。「あの伝説の宝庫、ヴォルダン王の隠し財宝が眠っているかもしれないんだぞ!」
イシェは呆れたように言った。「またヴォルダンか?いつまでその話をするんだい?もう疲れたよ」
その時、背後から冷たく低い声が聞こえた。「伝説の宝庫か…興味深い話だ」
ラーンとイシェが振り返ると、そこにはテルヘルが立っていた。黒曜石のように鋭い目つきで、二人を見下ろしていた。
「何か発見でもあったのですか?」テルヘルの声は氷のように冷たかった。「それともまた無駄な時間を過ごしただけですか?」
ラーンの顔色が変わった。「テ、テルヘルさん…!」
イシェは慌ててラーンを制止した。「テルヘル様、今日は何も見つかりませんでした。申し訳ありません」
テルヘルはにやりと笑った。「そうか。残念だ。では、私は帰らせてもらう。あなたちには、次の探索の場所を教える」
テルヘルは二人に背を向け、遺跡からゆっくりと歩き出した。彼女の足音だけが、静寂な遺跡に響き渡っていた。ラーンはイシェの手を握りしめ、不安そうに言った。「あの…テルヘルさんって、一体どんな人なんだろう…」
イシェは深く息を吸い、「わからない…」と呟いた。だが、彼女の表情には、どこか不吉な予感が漂っていた。