ビレーの薄暗い酒場には、いつもより活気がなかった。ラーンがいつものように大杯を片手に豪語しても、イシェの眉間にしわが寄るだけで、他の客はそっけない。
「なあ、イシェ。今日の遺跡で何か見つかったら、今日は奮発して酒だ!いい酒をおごるぞ!」
ラーンの言葉に、イシェはため息をついた。「ラーン、またそんなこと言ってる。あの遺跡はすでに枯渇してるって聞いたじゃないか」
「いや、俺には何か感じるんだ。今回は違うって!」
ラーンはそう言って、目を輝かせた。だが、イシェの視線は、カウンターに置かれた一際質素な瓶に釘付けになっていた。その瓶は、いつもとは違う銘柄のもので、密造酒だと噂されていた。
「あいつ、またあの怪しい酒を手に入れたみたいだな…」
イシェがそう呟くと、ラーンも視線を瓶に向けた。「あいつって誰だ?」
イシェは小さくため息をついた。「ビレーの南の方で暮らしている男だ。今は隠れているらしいけど、昔はすごい鍛冶屋だったんだって。今は密造酒を作って、それを通じて情報を得ているらしい」
「へえ、そんな奴がいるのか…」
ラーンが興味深そうに話すと、イシェはさらに続けた。「あの酒は、ヴォルダンとの国境を越えて運ばれるものらしい。危険なもので、触れないようにするのが一番だ」
ラーンの視線は瓶から離れず、イシェの言葉に耳を傾けなかった。「ヴォルダン…か…」
ラーンは呟きながら、瓶の中の液体をじっと見つめていた。そこに、テルヘルが姿を現した。彼女はいつものように、鋭い眼差しで二人を見下ろす。
「準備はいいか?」
テルヘルの言葉に、ラーンとイシェは立ち上がった。三人は酒場を後にする際、ラーンの視線は再び密造酒の瓶に向き、一瞬だけ、何かを思慮深く見つめていた。