ビレーの酒場「錆びた剣」はいつもより賑やかだった。ラーンの豪快な笑い声とイシェの低い呟きが混じり合う中、テルヘルは背の高い男と密かに話していた。男は黒ずんだコートを身に纏い、鋭い眼光で周囲を伺っていた。
「情報によると、ヴォルダンの軍需品が、エンノル連合の南部の港町に密輸されているらしい」
男は低く、しかし力強い声で言った。テルヘルは小さく頷き、テーブルの下に隠した小瓶を取り出した。中に入っているのは、ヴォルダン軍が好む高濃度の魔薬だ。
「これで取引を成立させれば、次のステップに進める」
男は瓶を受け取り、鋭い歯を見せて笑った。
「だが、注意が必要だ。エンノル連合の警備は厳しくなっている。特に、あの遺跡探索者コンビが関与しているという噂を聞いたぞ」
テルヘルは眉をひそめた。「ラーンとイシェか…確かに厄介な存在だ。しかし、彼らを操ることは容易い。大穴への執念を巧みに利用すれば、我々の目的を果たすことができるだろう」
男は満足げに頷き、立ち去った。テルヘルは残された酒を飲み干した。ラーンとイシェを利用し、ヴォルダンに復讐するため…。そのために、彼女はどんな手段も厭わない。