「よし、今日はあの崩れかけた塔だな。噂によると、奥にある部屋には未開の遺物があるらしい」ラーンの声はいつも通りの高揚感でいっぱいだった。イシェは眉間にしわを寄せながら地図を広げた。「そんな安易な話に乗るなよ。ヴォルダンとの国境付近だぞ。何かあったら逃げ遅れる。それに、あの塔は危険だって何度も聞いたことがある」
ラーンはイシェの言葉を無視して剣を手に取った。「大丈夫だ。俺が先頭だ。テルヘルさんが言ってたように、今回は大物が見つかる予感がするんだ!」
テルヘルは静かに微笑んだ。「そうだな。今回の遺跡は特に重要だ。我々が目指すものは、単なる金や宝石ではない」彼女の視線は遠くを向いており、何か別のものを探しているようだった。
3人は塔の入り口にたどり着いた。崩れかけた石段が、まるで巨大な獣の歯のように口を開けているように見えた。「ここは俺たちが最初に調査する場所だ。イシェ、お前は後ろを固めろ」ラーンはそう言うと、軽快に階段を駆け上がった。イシェはため息をつきながら、テルヘルに視線を向けた。「あの男は本当に何も考えてないわね」
「彼は単純だが、その純粋さが時には役に立つこともある。それに、彼には俺たちが望むものがある」テルヘルは静かに言った。「彼の力と、お前が持つ冷静さ、そしてこの密約…それが全てだ」
イシェは何かを察し、言葉を失った。ラーンの無邪気な笑顔は、彼女たちの抱える秘密を隠すように輝いていた。塔の奥深くでは、彼らの運命を変えるものが見つかる予感がしていた。