ビレーの薄暗い酒場で、ラーンはイシェにぎこちなく笑いかけた。テーブルの上には、テルヘルが渡したばかりの厚い羊皮紙が置かれていた。
「なんだって?また遺跡探しの依頼か?」
イシェは眉間に皺を寄せながら羊皮紙を手に取った。ラーンの顔色が少し良い感じに見えたのは事実だったが、イシェはそんな彼の様子に警戒心を抱いていた。テルヘルとの付き合いは短かったが、その冷酷さと目的のためなら手段を選ばない性格は、イシェの直感を鋭く刺激した。
「今回は違うようだ」
イシェは羊皮紙を広げると、そこに記された複雑な地図と記号を精査した。ラーンの期待に反し、地図には遺跡の場所を示すような記号はなく、代わりに山脈の奥深くにある何かの建造物の構造図が詳細に描かれていた。
「これは…?」
イシェは首を傾げた。「建造物?こんな複雑な構造物は見たことがない…」
ラーンは肩をすくめた。「テルヘルに聞けばいいんじゃないか?あいつなら詳しいはずだ」
イシェはため息をつきながら、地図をもう一度見詰めた。建造物の設計図には、まるで古代の文明の技術が凝縮されているような複雑な模様と記号が刻まれていた。そしてその中心部には、小さな赤い印がしてあった。
「この印…何か意味があるのだろうか?」
イシェは不安を感じながら地図をラーンに渡した。「よし、テルヘルに会いに行こう」
テルヘルの隠れ家は、ビレーの南の外れにある寂れた廃墟だった。薄暗い部屋の中、彼女はテーブルに広げられた地図を指さし、表情を硬くしていた。
「この建造物は、ヴォルダンが隠している秘密兵器の一部だと私は確信している」
テルヘルは冷たい目をラーンとイシェに向けた。「お前たちの任務は、この建造物に潜入し、その内部にある情報を手に入れることだ。そして、ヴォルダンへの復讐の第一歩となる証拠を掴むのだ」
ラーンの顔には興奮の色が浮かんだ。だがイシェは不安を感じた。テルヘルが隠している何か、そしてこの建造物の真の姿。そして、地図に記された赤い印の意味…
イシェは密かに自分のポケットに手を伸ばし、そこにある小さな羊皮紙を確認した。それはテルヘルから渡されたもので、ラーンには見せないようにして預かっていた密書だった。そこに書かれていたのは、建造物に関する詳細な情報と、ヴォルダンとの関係性についての衝撃的な事実だった。イシェは胸を締め付けられるような感情を抑えながら、深くため息をついた。
「わかった…やります」