「よし、今日はあの廃墟都市に行ってみるか?」
ラーンの豪快な声で目が覚めたイシェはため息をついた。「また無計画…」
だが、ラーンが目を輝かせて遺跡の地図を広げている姿を見ると、イシェも少しだけワクワクする。
ビレーの住民は、この街を囲むように広がる遺跡群に慣れ親しんでいる。しかし、その中でも特に危険とされているのが、かつて栄華を極めた都市跡だ。そこには、今もなお強力な魔物が徘徊すると伝えられている。
「あの都市は危険すぎるんじゃないのか?」イシェが不安そうに尋ねると、ラーンは肩をすくめた。「大丈夫だ。テルヘルさんがいるし」
テルヘルは、いつも冷静沈着で、戦術に長けている。彼女が遺跡探検に加わってから、ラーンの無茶な行動も少しだけ抑えられているように見えた。
「それに、あの都市には貴重な遺物があると聞いたんだ」ラーンの目は、金貨の光を宿していた。「もしそれが大穴につながるものだったら…」
イシェはラーンの夢を理解していた。だが、現実的に考えても、そんな宝物は存在するはずがないと彼は思っていた。
廃墟都市に到着すると、そこは荒れ果てた建物群が広がる不気味な場所だった。かつての栄華を物語る石造りの柱や壁の一部が残っているものの、ほとんどは崩れ落ちており、雑草が生い茂っている。
「ここには魔物が潜んでいるはずだ」イシェは警戒しながら、剣を構えた。「気をつけろ」
ラーンは軽く頷き、テルヘルと共に先陣を切って進んだ。彼らは慎重に足音を立てないように歩き、周囲の状況を観察していた。
すると、突然、空気が冷たくなり、背筋がぞっとするような感覚が襲った。
「何かいる…」イシェが声を震わせた。
その時、影から巨大な魔物が出現した。その姿は、かつて人間だったのかもしれないが、 grotesquely twisted limbs and glowing red eyesで、もはや人間の面影はない。
「逃げろ!」ラーンの叫び声が響き渡り、三人は慌てて逃走を開始した。
だが、魔物は驚異的なスピードで彼らを追いかけてきた。
彼らは狭い通路に追い込まれ、絶体絶命の状況になった。その時、イシェは背後から何かが飛んでくるのを感じた。振り返ると、テルヘルが小瓶を投げつけた。
瓶の中身は、強烈な臭いを放つ液体だった。魔物はそれを吸い込み、苦しげに唸り声を上げた。
その隙にラーンとイシェは逃げることに成功した。
安全な場所に逃げ込んだ後、イシェはテルヘルに尋ねた。「あの液体は何?」
「ヴォルダンから持ち出したものだ」テルヘルは冷たく答えた。「魔物の動きを一時的に封じる効果がある」
イシェは驚いた。テルヘルがヴォルダンと何か関係があるとは知らなかった。
「ヴォルダンに復讐するために、私はあらゆる手段を使う」テルヘルは言った。「この遺跡探検も、そのための準備の一つだ」
イシェはテルヘルの言葉の意味を理解し、そして怖くなった。彼女は単なる遺跡探索の依頼人ではなく、何か大きな陰謀に関わっている人物だった。
そして、イシェは自分が巻き込まれたことに気づいた。