ラーンの粗雑な剣の扱いにイシェが眉をひそめた。「もっと慎重に扱えと言っただろう。あの relic は貴重な品だぞ」。ビレーの酒場に集まる冒険者たちをよそに、二人はテーブルの隅でささやくように話していた。
「分かってるだろ、イシェ。でも、テルヘルがそんな細かいこと気にすんだよな」。ラーンは剣を片付け、テーブルの上にあった粗末な地図を広げた。「よし、今日の遺跡はここだな」。イシェは地図に目をやった。「また辺境の遺跡か。危険すぎないか?」
「危険?俺には関係ないぜ!大穴を見つけたら全てが解決だ!」ラーンの目は輝いていた。イシェはため息をついた。「いつもそんなことしか言っていないわ」。
その時、背後から声がした。「準備はいいか?」。テルヘルは黒曜石のような瞳を二人に向け、鋭い視線を向けてきた。「今日の遺跡にはヴォルダンが関与している可能性がある。用心しなければならない」。
イシェはテルヘルの言葉に背筋が凍りつくのを感じた。ヴォルダン…。その名前は、ビレーの人々にとって畏怖と憎悪を同時に抱かせる存在だった。
「ヴォルダン…」ラーンは少しだけ顔色を変えたが、すぐにいつもの軽やかな口調に戻った。「気にすんなよ、イシェ。俺たちはテルヘルと一緒にいるんだろ?大丈夫さ」。イシェはラーンの言葉を聞いても、心の中は不安でいっぱいだった。
夜が更け、三人はビレーの郊外にある廃墟へ向かった。廃墟にはヴォルダンと関係のある秘密があるとテルヘルは言っていた。イシェはラーンとテルヘルの後ろを歩きながら、密かに懐から小さな銀の鏡を取り出した。それはイシェが持っている唯一の宝物だった。
「あの鏡は何だ?」ラーンの声が聞こえてきた。「何でもないよ」イシェは慌てて鏡を隠し、少しだけ顔色が変わった。
廃墟の中は薄暗く、不気味な静けさが漂っていた。三人は慎重に足音を立てずに進む。テルヘルは先頭を歩き、鋭い視線で周囲を警戒していた。イシェはラーンの背後からテルヘルの動きを注意深く観察していた。何か秘密を抱えているような気がしたのだ。
廃墟の奥深くで、三人は大きな石室にたどり着いた。壁には奇妙なシンボルが刻まれており、中央には祭壇のようなものが置かれていた。テルヘルは祭壇に向かってゆっくりと歩み寄り、「ついに…見つけた」と呟いた。
イシェは不安を募らせていた。「これは何だ?」ラーンが尋ねた。「ヴォルダンの秘密兵器のようだ…」テルヘルは沈黙した表情で言った。「これを手に入れるために、私はあらゆる手段を使うつもりだ」。
イシェはラーンの顔色を見つめた。ラーンの目は、これまで見たことのないような輝きを放っていた。それは危険な欲望に満ちていたように見えた。イシェは自分の胸の中で小さな銀の鏡を握りしめ、決意した。「私は自分の道を行く」と。
その時、廃墟の外から激しい音が聞こえてきた。ヴォルダンの兵士たちが襲ってきたのだ。テルヘルは剣を抜いて敵に立ち向かい、「お前たちは邪魔だ!」と叫んだ。ラーンも剣を抜き、戦いに加わる。イシェは一瞬ためらったが、すぐに銀の鏡を取り出した。
「私はもう、誰かの駒にはならない」とイシェは呟き、鏡を高く掲げた。鏡から光が放たれ、廃墟に広がっていく。