「おいラーン、あの遺跡の入り口、見たことあるか?」イシェが地図を広げ、指先で示した。ラーンの視線は、テーブルに置かれた空になった酒びんに釘付けだった。「ああ、あれか。確か昔、鍛冶屋のおっさんが話してたな。家門の跡らしいぞ。何か危険な罠があるって」ラーンがぼそっと呟くと、イシェは眉をひそめた。「そんな話、聞いたことないわ。でも、あの遺跡は特に何も見つかっていなくて、調査も進んでいないから、テルヘルさんには魅力的かもね」
「魅力的?この貧乏神に魅力的なものなんてあるわけないだろう」ラーンが苦笑すると、イシェはため息をついた。「そうは言っても、彼女に気に入られたら日当も増えるし、なにより、あの遺跡の奥深くにあるって噂の『聖なる泉』を見つけるチャンスもあるんじゃないか?」
「聖なる泉?そんなもの、ただの作り話だろ」ラーンが眉をひそめると、イシェは小さく笑った。「そうかもしれないわ。でも、もし本当なら、あの泉の水を手に入れることで、どんな家門の呪いも解けるって言う人もいるのよ」
ラーンの視線が、再び空になった酒びんに移った。彼の心の中で、かつての鍛冶屋のおっさんが語っていた言葉が蘇ってきた。「あの遺跡には、家門の栄華と破滅の歴史が眠っている。そこに触れる者には必ず試練が訪れる…」
テルヘルは、ラーンとイシェの会話に耳を傾けながら、唇を細く結んでいた。彼女は、彼らの言葉を聞きながら、ヴォルダンとの戦いを思い出していた。かつて、彼女の家門も、ヴォルダンによって滅ぼされたのだ。そして、彼女は復讐を果たすため、あらゆる手段を用いることを決意したのだった。
「よし、あの遺跡へ行くことにしよう」ラーンが立ち上がり、テーブルを叩いた。「聖なる泉なんてどうでもいいけど、何か面白いものが見つかるかもしれないぞ!」イシェは少し戸惑った様子だったが、結局はラーンの後についていくことにした。テルヘルは静かに微笑んだ。彼女には、あの遺跡の中に、復讐の鍵があると確信していたのだ。