「おい、イシェ、準備はいいか?」ラーンが剣を肩越しにひっかけて、陽光を浴びてキラキラと輝く遺跡の入り口を見つめた。
「準備はいいわよ。だけど、またあの大穴の話? ラーン、いつまでその夢を見るつもりなの」イシェは小さくため息をつきながら、背負った袋を締め直した。
「いつか必ず掘り当てるからな! あの時のように!」ラーンは目を輝かせた。数年前、まだ若かった二人が偶然見つけた小さな遺跡で、錆びついた剣と古い地図を見つけたことを思い出していた。地図には「大穴」と呼ばれる場所が記されていた。大穴に眠るという伝説の宝こそがラーンの夢だった。
「あの地図は偽物だと思ってたんだけど…」イシェは呟いた。
その時、背後から冷ややかな声が響いた。「準備はいいか? 今日は時間が限られてる」テルヘルが鋭い目つきで二人を見下ろした。彼女は黒革のブーツをカチカチと鳴らしながら近づいてくる。
「ああ、準備は完了だ。テルヘルさん」ラーンはにこやかに答えた。テルヘルは彼らに遺跡探索を依頼する代わりに、発見物の独占権を得ていた。彼女の目的は何か、ラーンの頭の中をよぎったが、彼女は決して口を開かなかった。
「では、中へ入ろう」テルヘルが先導し、三人は遺跡の入り口へと足を踏み入れた。薄暗い通路を進むにつれ、湿った土の臭いが鼻をつく。壁には奇妙な模様が刻まれており、時折、不気味な音が聞こえた。
「ここ…何か変だ…」イシェは不安げに言った。ラーンは剣を握りしめ、周囲を警戒した。テルヘルは表情を変えずに、静かに進んでいった。
しばらく進むと、通路の先に大きな部屋が現れた。中央には石造りの祭壇があり、その上に奇妙な形の石が置かれていた。
「これは…」イシェは息を呑んだ。石からは不思議なエネルギーを感じ取ることができた。
テルヘルはゆっくりと祭壇に近づき、石に触れた。「これが…家督の場所か」彼女はつぶやいた。
ラーンは混乱した。「家督? 何のことだ?」
テルヘルは振り返り、ラーンの顔を見つめた。「お前たちに説明する必要はない」彼女は冷たく言った。そして、石を手に取り、ゆっくりと持ち上げた。その時、部屋の壁が激しく揺れ始めた。
「何だ!?」ラーンは驚いて叫んだ。
イシェは恐怖で目を背けた。「逃げろ!」