「準備はいいか?」
ラーンのざっくりとした声に、イシェはため息をついた。「いつも通り、準備は万端よ。ただ、今回はテルヘルさんの指示が具体的すぎるわね。あの遺跡の構造図まで用意するなんて…」
「ああ、あれは必要なんだ」とテルヘルは静かに言った。その目は冷たく、どこか遠くを見つめているようだった。「あの遺跡には何か…重要なものがある。それを手に入れるためなら、どんな準備も惜しまない」
ビレーの街はずれで、三人は廃墟と化した石造りの建物に足を踏み入れた。かつては貴族の邸宅だったというその建物は、今は荒れ果てており、壁には苔が生え、崩れ落ちた柱が地面に倒れていた。
「ここ…本当に安全なのか?」ラーンが不安げに尋ねると、イシェは眉をひそめた。「確かに、この遺跡の周辺には特に危険な魔物が生息する記録はない。だが…」彼女は視線をテルヘルに向けた。「テルヘルさん、あなたは何か知っているのですか?」
テルヘルは小さく頷いた。「この遺跡…ここはかつて、ある大貴族の屋敷だった。その貴族は、ヴォルダンとの戦いで家名を失い、ここに隠れ住んでいたという記録が残っている」
「家格…」ラーンの声が重くなった。「あの貴族が所有していた財宝なら、確かに価値があるだろうな…」
テルヘルは深く頷いた。「そして、その財宝を守るために、強力な魔物が仕掛けられていたという噂だ」
イシェは不安げに言った。「つまり…危険な場所なのかしら?」
「だが、大丈夫だ」ラーンが力強く言った。「俺たちが一緒なら、どんな敵も倒せる!」
テルヘルの鋭い視線がラーンに注がれた。彼の瞳には、かつての貴族の栄光と、復讐への執念が燃えていた。
三人は遺跡の中へと足を踏み入れた。石畳の上を足音が響き渡り、埃が舞い上がる中、彼らの影は長く伸びていく。