「よし、今回はあの崩れた塔だ。噂によると奥深くには未開の部屋があるらしいぞ」ラーンが目を輝かせながら言った。イシェはいつものように眉間に皺を寄せた。「また荒唐無稽な話だな。そんな危険な場所へ行く必要はない。今日の仕事はこれで終わりにしよう」
「なんだって、イシェ!せっかくテルヘルさんがいい日払いしてくれたんだぞ。Besides, 」ラーンは目を細めてイシェの顔を見つめた。「お前もいつか大穴を掘り当てたいと思ってるんでしょ?」
イシェはため息をついた。「大穴なんて、そんなものは存在しないわ」と呟きながらも、ラーンの熱気に少しだけ心を動かされたようだった。
「よし、わかった。行くことにするけど、危険な場所には近づかないようにね」
テルヘルは静かに二人を見つめていた。彼女にとって遺跡探索は復讐の手段に過ぎなかった。ヴォルダンからの報復のため、彼女はあらゆる手段を尽くす覚悟がある。ラーンとイシェを利用しているという意識は薄く、彼らを家来のように見ている部分があった。
崩れた塔の内部は暗く湿っていた。石畳の上には苔が生え茂り、天井からは石灰が降り注いでいた。ラーンの持つ火の粉が影を揺らす度に、イシェは不安を感じた。
「ここには何かがいる気がする…」イシェは小声で言った。
だがラーンは気にせず、剣を片手に進んで行った。「大丈夫だ、俺が守る」
その時、壁から何者かが飛び降りてきた。巨大な影が二人を襲い、ラーンは剣を振りかざして応戦した。イシェは驚愕しながら後ずさった。
影はラーンの攻撃をかわし、鋭い爪で彼めがけて襲いかかった。ラーンは必死に防御するも、影の力は強く、吹き飛ばされてしまった。イシェは恐怖に震えながら、駆け寄ろうとしたその時、テルヘルが姿を現した。
「待て」テルヘルは冷静な声で言った。「あれを倒すには、この遺跡の奥にある秘密が必要だ」
彼女はラーンを助け起こし、イシェの目をじっと見つめた。「お前も危険を冒してでも、大穴を求めているんじゃないか?」
イシェは言葉を失った。テルヘルはまるで彼女の内なる欲望を見透かしたようだった。
「さあ、一緒にこの塔の奥へと進もう」テルヘルは微笑みながら言った。その表情には、復讐者としての冷酷さと共に、何か別のものが宿っているように見えた。