「よし、行こうぜ!」ラーンの元気な声がビレーの朝霧を切り裂いた。イシェはいつものように眉間にシワを寄せていた。「またあの遺跡か? 同じ場所を何度も掘り返しても大穴なんて見つからないわよ。」
「いや、今回は違う気がするんだ!ほら、この地図見てみろ!」ラーンが興奮気味に広げたのは、イシェが何度見ても意味不明な線と記号の羅列だった。
「これじゃただの落書きじゃないの?」イシェはため息をつきながら、それでも地図を受け取った。「本当に大穴が見つかるなら、ビレー中の家が建ち並ぶだろうね。」
ラーンの家は貧しく、イシェの家も大きなものではない。ビレーの人々のほとんどがそうだった。遺跡から得られるわずかな利益で、家賃を払い、食料を手に入れ、明日を迎える。
「あの日、ヴォルダン軍が襲ってきた時…」テルヘルは突然静かに口を開いた。「私の家は、火の海になった。全てを失った。」彼女の目は燃えるように輝き、ラーンの地図に視線を向けた。「この遺跡には何かがある。ヴォルダンを滅ぼすための鍵が…。」
イシェはテルヘルの過去を知っていた。ヴォルダンの残虐行為によって家族を失い、復讐に燃えるその姿は、まるで呪いのようだった。だがイシェは、ラーンと同じように、希望を見いだせなくなっていた。
「大穴」と「家」。二つの言葉が、それぞれの心に深く刻まれていた。彼らは遺跡へと続く道を歩み始めた。