「よし、行こうぜ！」ラーンの豪快な声がビレーの朝霧を切り裂いた。イシェはいつものようにため息をつきながら、彼についていく。今日も遺跡だ。大穴を夢見るラーンにとって、遺跡探索は単なる日暮らしの繰り返しだった。だがイシェには違う。ラーンが夢を見る一方で、彼女は現実的に「いつか安定した生活を送りたい」と願っていた。
「今日はあの廃墟の奥深くまで行くぞ！」ラーンの目は輝いていた。イシェは彼の熱意に押され、仕方なく頷いた。テルヘルはいつも通り冷静な表情で二人を見下ろす。「危険な場所だ。注意しろ。特にお前たちには」彼女の言葉は冷たかったが、どこか心配しているようにも聞こえた。
遺跡の入り口は崩れかけていて、内部は薄暗い。ラーンの力強い足取りが響き渡る中、イシェは静かに周囲を見回し警戒を怠らなかった。テルヘルは常に一歩後ろを歩き、鋭い目で周囲を観察していた。彼女は何かを探しているようだった。
奥深くまで進むにつれて、遺跡の雰囲気が重くなっていった。壁には不可解な文字が刻まれ、床には腐敗した骨が転がっていた。ラーンは興奮気味に「見てくれ！古代文明の遺物だ！」と叫んだが、イシェには不吉な予感がしていた。
その時だった。突然、地面が崩れ、ラーンが深い穴に落ちてしまった。「ラーーン！」イシェの声が響き渡った。テルヘルは冷静に状況を判断し、「急いで助けるぞ！」と叫んだ。彼女はロープを投げ入れ、イシェと共にラーンの救出に向かった。
しかし、穴の奥には予想外の光景が広がっていた。広大な地下空間で、輝く水晶が点在している。中央には巨大な石碑があり、その表面には複雑な模様が刻まれていた。
「これは…！」テルヘルは目を輝かせた。「ここに何かある！古代文明の秘宝だ！」ラーンは怪我をしながらも立ち上がり、興奮気味に石碑に手を伸ばした。その時、石碑から激しい光が放たれ、ラーンの体を包み込んだ。
「うわぁっ！」ラーンの叫び声と共に、光は消滅した。そして、そこにはラーンの姿はなく、代わりに巨大な魔物の姿があった。
イシェは言葉を失い、テルヘルは冷静さを保ちながら状況を判断していた。「これは…ヴォルダンに伝えなければ」彼女はつぶやいた。
ラーンが魔物に変貌したことは、彼女にとって大きな発見だった。それはヴォルダンへの復讐を果たすための新たな手がかりだったのだ。だが、イシェの心には不安が募っていた。ラーンの姿を見た時、彼の瞳の中に見たのは、まるで「宣言」のような意志だったからだ。