ラーンが剣を抜き放つ音が、石室の静寂を打ち破った。壁一面に広がる古代文字は、彼にとってはただの模様にしか見えなかった。イシェは慎重に足音をおさえながら、崩れかけた石段を登っていく。「ここは一体…」と呟く彼女の背後から、テルヘルが冷めた声で言った。「この遺跡には、ヴォルダンが探しているものがある。」
ラーンの顔色が変わった。ヴォルダン。その名を聞くだけで、彼の腹は燃えるような怒りで満たされた。だが、今は冷静さを保つ必要があった。テルヘルに雇われた以上、彼女の目的を達成することが彼らの報酬につながるのだ。イシェが石段の上から振り返り、「何か発見？」と尋ねると、テルヘルは小さく頷いた。「古代の文献によると、この遺跡には『精霊の結晶』と呼ばれるものがあるらしい。ヴォルダンはそれを利用して、恐ろしい実験を企んでいる。」
ラーンは眉間に皺を寄せた。「実験？何のつもりだ？」テルヘルの目は、冷たい炎のように燃えていた。「その実験が成功すれば、ヴォルダンは圧倒的な力を手に入れることができるだろう。そして、この国、いや、世界は彼の支配下に置かれることになる。」イシェが驚愕したように声を上げた。「そんな…！」
ラーンの胸に熱いものが込み上げてきた。ヴォルダンに奪われた故郷、家族、そして未来を。彼は剣を握りしめ、決意を新たにした。「絶対に阻止する。どんな犠牲も払ってでも。」テルヘルは小さく頷き、石室の奥へと続く通路を指さした。「精霊の結晶は、その先に眠っている。準備はいいか？」
ラーンとイシェは互いに頷き合った。彼らは知っていた。この遺跡に潜む危険は計り知れない。だが、ヴォルダンの野望を阻止するためには、この試練を乗り越えるしかないことを。三人は、石室の奥へと進んでいった。