ラーンの大笑い声だけが、埃っぽい遺跡の通路にこだましていた。
「ほら、イシェ!見てくれよ、この奇妙な石碑!」
彼は興奮気味に、苔むした石碑を指差した。イシェは眉間に皺を寄せながら、石碑に刻まれた不可解な文字列を眺めた。
「また見慣れないものを見つけたのね。ラーン、本当に財宝が眠っていると思うのかい?」
イシェの言葉に、ラーンは一瞬だけ自信を無くしたように見えたが、すぐにいつもの陽気な表情を取り戻した。
「ああ、きっと!いつか必ず大穴を掘り当ててやるんだ!」
彼の言葉は、まるで呪文のように繰り返されるものだった。イシェはため息をつき、石碑の調査を始めた。
その時、後ろから冷たく低い声が響いた。
「その石碑、興味深いですね。」
テルヘルが、影のように二人に近づいてきていた。彼女の鋭い視線は、石碑を貫くように一点を見据えていた。
「この記号群は、ヴォルダン帝国の古文書にも見られるものだ。恐らく、ある種の儀式に使用されていた可能性が高い。」
テルヘルはそう言うと、ラーンとイシェに目を向け、意味深な笑みを浮かべた。
「もし、この石碑が本当に儀式用のものだとしたら… 私たちには、大きな利益をもたらす可能性がありますよ。」
ラーンの目は輝き、イシェは警戒心を強めた。テルヘルの言葉の裏にある真意は何なのか。そして、その「利益」とは何か。彼らの運命は、この遺跡の奥深くに隠された秘密と共に、ゆっくりと動き始めていた。