「おいイシェ、あの石柱、どう思う?」
ラーンが指差す先には、崩れかけた遺跡の奥底に立っていた、不気味な石柱があった。表面には複雑な模様が刻まれており、まるで何かを訴えているようにも見えた。
「何だかわからないけど、触るのも怖いよ…」
イシェは慎重に距離を取り、ラーンの肩越しに石柱を観察した。彼女はいつも通り、実地に目を向け、理性的に判断しようとしていた。一方のラーンは、興味津々に石柱をじっと見つめていた。彼の頭の中は、宝の在処を示す暗号だと信じて疑わない、いつもの妄想でいっぱいだった。
「何かあると思うんだ!ほら、この模様、まるで地図みたいじゃないか?」
ラーンは興奮した様子で石柱に近づき、手を伸ばそうとしたその時、テルヘルが制止の声をかけた。
「待て。あれに触れるな」
テルヘルは冷静な眼差しで石柱を見つめ、鋭い視線で周囲をくまなくチェックしていた。「あの模様はヴォルダンで使われていた古代文字に似ている。触れた瞬間に何らかの仕掛けが発動する可能性もある」
彼女の言葉にラーンとイシェは驚いた。テルヘルはいつも冷静沈着な態度をとっていたが、その知識の深さと洞察力は驚くべきものだった。実学を重視する彼女にとって、古代文字や遺跡の構造など、理論に基づいた分析こそが最も重要な情報源だった。
「どうすればいいんだ?」
ラーンの興奮も冷めやらぬ声に、テルヘルはこう答えた。
「まずはこの石柱の情報を集めよう。ヴォルダンに関する資料を調べれば、この模様の意味や危険性を解明できるかもしれない」
こうして三人は遺跡から離れ、ビレーへと戻っていった。彼らの前に広がるのは、まだ解き明かされていない古代の謎と、それを解き明かすための険しい道だった。