ラーンの粗い手で、イシェの細身な身体が押しのけられるようにして遺跡の奥へと進む。狭い通路は湿気を帯びていて、不快な臭いが鼻腔を刺した。ラーンの足音は重く、イシェのそれは軽やかだった。
「本当にここなのか、イシェ？」
ラーンの声がエコーとなって響き渡る。イシェは懐中電灯の光を壁に当てながら地図を広げた。「ここに記されている場所だよ。テルヘルが言うように、ここはかつて王家の墓所だったらしい。」
テルヘルは彼らの後ろを少し離れた場所で、静かに周囲を見回していた。彼女の鋭い視線は、まるでこの遺跡自体を穿き通そうとしているようだった。彼女の目的は、単なる遺物の発見ではないことは明らかだった。ラーンの背筋がゾッとするような寒気を覚えた。
「何か感じる？」
イシェの問いかけにラーンは首を振った。「ただ、何か不気味な感じがするだけだ。」
すると、壁の一部分から微かな光が漏れてきた。イシェが懐中電灯を向けると、そこに小さな石畳が現れた。まるで何者かが意図的に隠したかのようだ。
「これは…！」
イシェの声に興奮がこもった。「ここには何かあるはずだ。」
ラーンはイシェの背後から石畳を覗き込んだ。そこに飾られた紋章は、彼がかつて見たことのないものだった。奇妙な美しさの中に、どこか邪悪さも感じさせた。
テルヘルが近づいてきた。「これはヴォルダン王家の紋章だ。」彼女は声に力をこめて言った。「ここには王家の秘宝が眠っている可能性が高い。だが、同時に危険も孕んでいるだろう。」
彼女の言葉は、まるで予言のようだ。ラーンの視線は再び石畳に注がれる。そこに隠された秘密、そしてその先に待ち受ける運命。彼は自分の心臓が激しく鼓動していることに気づいた。それは興奮と恐怖、そしてどこか官能的な陶酔感だった。
「よし、やろう！」
ラーンの決意を固めるように、石畳に手を伸ばした。イシェは一瞬ためらいを見せたが、すぐにラーンに歩調を合わせた。テルヘルもまた、冷酷な笑みを浮かべながら彼らを後押しした。彼らは、未知の危険に立ち向かう準備をしていた。