ビレーの酒場「荒くれ者の憩い」はいつもより騒がしかった。選挙期間中ということもあり、各政党の支持者たちが熱く議論を交わしていた。ラーンとイシェはそんな喧騒を背に、テーブルの一角で静かに食事をしていた。
「今日の依頼はどうだった？」
イシェが口を開くと、ラーンは深くため息をついた。
「また dud だったよ。あの遺跡の奥には、ただの朽ちた骨しか無かった。テルヘルもガッカリしてたみたいだ」
ラーンの顔色が曇ると、イシェは少しだけ同情した。
「まあ、そんなこともあるさ。いつか大穴を掘り当てられる日が来るかもしれないじゃないか」
イシェの言葉に、ラーンは苦笑いした。
「そうだな。でも、最近テルヘルが妙に焦っているように見えるんだ。何か隠しているんじゃないかと疑ってしまうくらいだ」
イシェは少し考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「もしかしたら、あの遺跡には何かあったのかもしれません。テルヘルが言っていたように、ヴォルダンとの関係は複雑で、彼女にとって重要なものがあるのかも知れない」
ラーンはイシェの言葉を聞いてうなずいた。テルヘルはいつも冷静沈着だが、ヴォルダンのことになると感情を露わにすることがある。その表情から、彼女の過去に何か大きな出来事があったことは確かだった。
「とにかく、次の依頼で何か見つかるといいな」
ラーンがそう言うと、イシェも頷いた。二人は互いに視線を交わし、沈黙の中で固い決意を新たにした。
その時、酒場の入り口で大きな拍手と共に一人の男が入ってきた。その男は立派な制服を着ており、腰には剣が下げられていた。明らかに官僚という雰囲気だ。男は自信満々に店の中を見回し、ラーンたちの方へ歩いてきた。
「お二人様ですね？テルヘルさんからの伝言です」
男はそう言うと、一枚の封筒をテーブルに置いた。封筒には「秘密裏に開けよ」と小さく記されていた。ラーンの顔色が少しだけ変わった。イシェも封筒を警戒するような視線で見ていた。
「何だこれは？」
ラーンが封筒を取り上げようとすると、男は手を止めさせた。
「あの…申し訳ありませんが、私はテルヘルさんの指示に従い、この封筒を渡すだけの役割です。中身については何も知りません」
男はそう言うと、深々と頭を下げると、すぐに店を出ていった。ラーンの視線は封筒に釘付けになった。イシェも興味津々にラーンを見つめている。二人は互いに言葉を交わさず、封筒の重みに押しつぶされるような静寂の中で、物語は新たな展開を迎える予感を漂わせていた。