ラーンが巨大な石扉の前に立ち尽くす。イシェが後ろから「大丈夫か？」と声をかけるが、ラーンは返事もしないで扉を押し始めた。重いが、少しづつ開いていく。中からは薄暗い光が差し込み、埃っぽい空気が流れ出てきた。
「よし、行こう！」
ラーンの声に、イシェも深呼吸をして扉の中へと足を踏み入れた。そこは広々とした石造りの部屋で、天井には幾何学模様が複雑に刻まれていた。中央には祭壇のようなものが置かれ、その上に小さな水晶の球が鎮座していた。
「これが噂の…」
イシェが言葉を失う。ラーンは水晶球をじっと見つめた。
「大穴か…」
彼は興奮気味に呟いた。イシェはそんなラーンの様子を見て、何かを察したようにゆっくりと頷いた。
突然、部屋の奥から風が吹き抜けてきた。石畳の上で埃が舞い上がり、二人の視界を遮った。そして、水晶球がゆっくりと光り始めた。
「何だこれは…」
イシェは不安げにラーンの腕をつかんだ。すると、水晶球から強い光が放たれ、部屋全体を照らし出した。その光の中に浮かび上がる影は、巨大な蛇のような姿をしていた。
「なんだあの…」
ラーンの言葉も途絶えた。蛇の目は赤く光り、鋭い牙を見せていた。その姿は邪悪そのもので、ただでさえ薄暗い部屋にさらに不気味さを加えていた。
イシェは恐怖で体が震えるのがわかった。
その時、水晶球が割れ、部屋中に小さな破片が散らばった。同時に、蛇の姿も消えた。光も消え、部屋は再び暗闇に包まれた。
「どうしたんだ？」
ラーンが尋ねたが、イシェはただ黙って首を振るだけだった。二人は互いに恐怖を感じていた。
その時、イシェの耳に小さな声が聞こえてきた。それは、まるで囁きのような声だった。
「汝らは選ばれし者なり…」
声は消えた。イシェはラーンに目を合わせた。彼の顔にも恐怖の色が浮かんでいた。二人は互いに理解を分かち合わずとも、何か大きな出来事が起きたことを感じていた。
そして、二人はゆっくりと部屋から出ていった。背後には、蛇の影が薄暗い光と共に消えていくのが見えた気がした。