ビレーの朝は、いつもより早く来たように感じた。ラーンが目を覚ますと、イシェがすでに準備を始めていた。いつものように、イシェは眉間に皺を寄せていた。「今日はテルヘルが急いでいるみたいだ。何かあったのかもしれない」。イシェの声は心配そうに響いていた。
ラーンの心にも不安が忍び寄った。テルヘルはいつも冷静沈着な女性だった。ヴォルダンへの復讐心に燃えていることは知っていたが、そのために感情的に動くことはなかった。今日の急ぎぶりには、何か重大な理由があるに違いないと感じた。
遺跡へと続く道のりは、いつもと比べて緊張感に包まれていた。ラーンは剣を握りしめ、周囲を警戒しながら歩を進めた。イシェはいつもより慎重な足取りで、テルヘルの後をついていく。テルヘルの表情は険しく、口元からは冷たい風が吹き出しているようだった。
遺跡の入り口に立つと、テルヘルが振り返り、ラーンとイシェに言った。「今日は特別な日だ。ここに眠っている遺物は、ヴォルダンを滅ぼす鍵となるものだ」。彼女の目は、今まで見たことのないほど輝いていた。ラーンの胸には、何かが締め付けられるような予感がした。
遺跡内部は暗く、湿った空気が漂っていた。足元の石畳は苔むしていて滑りやすく、ラーンとイシェは慎重に歩を進めた。テルヘルは先頭を行き、懐中電灯の光を ahead に向けていた。その光が照らす壁には、古代の人々が描いた複雑な模様が刻まれていた。
やがて、彼らは遺跡の中心部にたどり着いた。そこには、巨大な石棺が置かれていた。棺の上には、謎の文字が刻まれており、テルヘルは熱心に解読を試みた。
「これは…ヴォルダンの支配を終わらせるための鍵となるものだ」。テルヘルは興奮気味に言った。「この石棺を開ければ、ヴォルダンを打ち負かすことができるはずだ」。
ラーンは不安を感じた。石棺を開けるということは、強力な力と同時に、恐ろしいリスクをも意味するだろう。彼はイシェの顔を見て、何かを伝えようとしたが、言葉にならない。イシェもまた、ラーンの目を見て、深く頷いた。彼らは、テルヘルの決意を止めようとは思わなかった。
テルヘルは石棺に手をかけ、ゆっくりと蓋を開け始めた。その瞬間、遺跡全体が激しく震え、埃が舞い上がった。ラーンとイシェは、互いに助け合って立ち上がった。
石棺から放たれた光は、彼らの目を刺し、周囲を明るく照らした。その光は、希望にも見えるが、同時に、何かを「守る」ために必要なものだとラーンに感じさせた。
そして、石棺の中からは、美しい水晶の球体が現れた。